風邪(急性上気道炎)は小児ではありふれた感染症になりますが、科学的根拠によって支持された有効な治療がほとんどないのも事実です。
- 「かぜを治す薬はない」
などと聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
「有効な治療方法がない」反面、小児科外来を受診される保護者の方々は「かぜを直して欲しい」「重症化を防ぎたい」「症状を楽にしてほしい(そういう薬を処方してほしい)」といった思いが少なからず、あるのではないでしょうか。
「治療方法」と耳にすると、どうしても飲み薬ばかりに目がいきがちです。わずかではありますが、飲み薬以外でも、風邪への対処法があります。
その1つが「鼻水を吸う・鼻を洗う」といった方法です。
今回は「鼻洗い+保護者への教育」が、小児のかぜにどの程度有効であったかを検討した論文をご紹介します。
研究の方法
今回の研究は、2015年にポルトガルの6つの保育所で行われたランダム化比較試験です。対象となったのは、
- 3歳未満
- 3日以内のかぜ症状(参加時に)
- 重篤なかぜ症状はない(PRSS > 16)
- 慢性疾患はない
などを基準にしています。
介入の方法
2 x 2 Factorial designでして、
- 保護者への教育:する or しない
- 鼻洗いを指導:する or しない
の2 x 2 = 4通りの介入を行なっています。
教育的な介入ですが、
- 感染症の予防方法
- せき、鼻汁、鼻閉など、風邪の初期症状
- 悪化時の対処法:発熱や食欲低下など
- 抗菌薬の適応
- 鼻洗いの仕方
を1時間半に渡って教育する方法です。(実演はなし)
鼻洗いの指導については、呼吸理学療法士から
- 0.9%の生理食塩水を用いる
- 鼻洗いをする姿勢(やや前傾姿勢)
- 鼻水の吸引の方法
を直接指導されています。
アウトカムについて
研究のアウトカムは、1ヶ月以内の
- 上気道炎
- 下気道炎
- 急性中耳炎
- 受診率
- 救急外来利用率
- 抗生剤など内服薬の使用率
などを計測しています。
研究の結果と考察について
最終的に101人の患者が解析対象となっています。内訳は以下の通りです:
教育 | 鼻洗いの実演 | 人数 |
なし | なし | 34 |
あり | なし | 28 |
なし | あり | 26 |
あり | あり | 13 |
患者背景の特徴ですが、
- 30ヶ月(2歳半)ほど
- 母乳は平均で7ヶ月ほど
- 男児がやや多い
- 親の喫煙率は 15-30%ほど
などです。
1ヶ月以内の感染症について
1ヶ月以内の感染症の発症率を見ています:
教育 | なし | あり | なし | あり |
鼻洗い | なし | なし | あり | あり |
上気道炎 | 94.1% | 82.1% | 76.9% | 69.2% |
下気道炎 | 29.4% | 10.7% | 3.8% | 0% |
中耳炎 | 32.4% | 7.1% | 11.5% | 7.7% |
かぜ(上気道炎)、下気道炎(気管支炎や肺炎)、中耳炎の罹患率は
- 患者への教育なし・鼻洗いの指導なしのグループが高い
- 患者教育と鼻洗いの指導をしたグループが良い傾向にある
といえそうです。
受診率や薬の処方率
1ヶ月以内の受診率や薬の処方率ですが、以下の表の通りです:
教育 | なし | あり | なし | あり |
鼻洗い | なし | なし | あり | あり |
N | 34 | 38 | 26 | 13 |
受診率 | 70.6% | 42.9% | 38.5% | 30.8% |
救急外来 | 20.6% | 14.3% | 11.5% | 0% |
抗菌薬 | 44.1% | 7.1% | 23.1% | 15.4% |
抗ヒスタミン薬 | 50.0% | 28.6% | 38.5% | 23.1% |
気管支拡張薬 | 23.5% | 17.9% | 11.5% | 7.7% |
鼻洗いと教育的な介入をしたグループの方が、
- 医療機関への受診率が低い
- 抗菌薬など薬の処方率が低い
傾向にあるのがわかります。
受診基準などの知識の提供と、具体的にどう対処したら良いかを知ることで、受診率は下がり、本来は不要であった薬の処方機会も減っているという印象ですね。
考察と感想
受診基準や風邪の経過などの知識を提供し、鼻洗いなどの対処法を教えることで、気道感染症や中耳炎のリスクが減り、受診率は下がり、抗菌薬など薬の処方率も下がりました。
教育的な介入や、自宅での対処法を具体的にどうするのか、実演しながら教えることが重要なことが示唆された論文と思いました。
問題点としては、今回の研究でいえば教育的な指導に1時間半、さらに実演とかなり時間を要してしまう点でしょうか。
日本の小児科外来ですと、近年は無料化の影響もあり、非常に混雑しているので、やや非現実的で、保育園や幼稚園、あるいは出産前の妊婦さんなど集団的な教育や介入が解決策になるのかもしれません。
この研究の懸念点としては、loss to follow-upの偏りがある点です。特に、教育的な介入+実演に割り振られたグループの人は、半分ほどいなくなっています。
比較的、軽症な子供が残ってしまった、やる気に満ち溢れた保護者が残ったなど、介入以外の影響が大きく残ってしまっている印象を受けます。
まとめ
今回の研究は、ポルトガルで3歳未満の乳幼児を対象に、かぜの教育と鼻洗いの指導の介入をしています。
知識の提供と、鼻洗いなど実演を交えた介入は、外来受診率や抗菌薬などの処方率を下げる傾向にありました。
研究の過程でドロップアウトされた方が多く、選択バイアスが残っている懸念があります。