小児の吐き気どめの有効性が気になっている保護者の方々へ
- 『急に嘔吐をしてしまいました』
- 『吐き気があるときにの対処法を教えてください』
と日々受診されます。
お子さんの嘔吐は心理的にも負担が大きいようで、受診するきっかけになっているのだと思います。ご自宅で、どのように対処してよいのか、詳しく知りたい方も多いでしょう。
さらに、
- 吐き気止めの薬って効くんですか?
- 『「吐き気止めの薬を使って、胃を空っぽにして、吐き気が治まるのを待つのが一番」と近くのクリニックで言われましたが本当ですか?』
など、吐き気どめの有効性をついでに知りたい方もいるでしょう。
本記事では、以下の内容を中心に説明しています。
本記事の内容
- 「お腹のかぜ」を急性胃腸炎といいます
□ 外来でよく診ます
□ 胃腸炎の症状 - 代表的な小児の吐き気どめ(制吐薬)
□ ナウゼリン®︎(ドンペリドン)
□ プリンペラン®︎(メトクロプラミド) - 吐き気どめには科学的根拠(エビデンス)がない
- 小児の嘔吐時の対処法
「急性胃腸炎」=「おなかの風邪」
小児の嘔吐・下痢・腹痛の原因は、急性胃腸炎がほとんどです。
胃腸炎とは、いわゆる「おなかの風邪」のことをいいます。
嘔吐の原因として多い胃腸炎は減ってますが、外来でもよく診ます
日本は適切な飲料水の供給や下水道設備のおかげで、衛生環境はとてもよくなっています。
このため、途上国でみられる寄生虫や細菌による消化管の感染症は激減しており、日本は世界で有数の清潔な国です。
しかし、ウイルス性胃腸炎の患者数は多く、日常的に外来で診療します。
特に5歳未満の小児は胃腸炎にかかりやすく、
- 『嘔吐しました』
- 『下痢が治りません』
といって受診される方を小児科では日々診療しています。
胃腸炎の症状
胃腸炎で辛い症状は間違いなく『嘔吐』でしょう。
食事や水分を吐いてしまうと、栄養摂取が十分にできなくなります。
さらに「吐く」という行為が、患者や家族の心理的な負担になります。
このため、嘔吐や吐き気を止めて欲しいという保護者の要望や、医師の希望もあり処方されている「吐き気止め」です。
医療者では「制吐剤」と呼んでいます。
代表的な制吐剤(吐き気どめ)を説明します
クリニックで子供に処方される吐き気止めは、『ナウゼリン®︎』や『プリンペラン®︎』が一般的と思います。
これら吐き気止めの薬(制吐剤)について説明していきましょう。
制吐剤:ナウゼリン®︎(ドンペリドン)
「吐き気止め」として「ナウゼリン®︎」が最もよく処方されてます。
ナウゼリン®︎ はあくまで薬の商品名でして、薬の一般名は「ドンペリドン」です。
粉薬、錠剤、坐薬と種類があり、患者さんのニーズに合わせて処方することができます。
ナウゼリン®︎ は、消化管や中枢神経にあるドーパミン受容体をブロックし、吐き気を抑える働きがあるといわれています。
制吐剤:プリンペラン®︎(メトクロプラミド)
プリンペラン®︎ も吐き気止めとして、よく使用します。
吐き気止めとして、点滴に混ぜることこともあります。
プリンペラン®︎ は商品の名前で、薬の名前は「メトクロプラミド」です。
プリンペラン®︎ もナウゼリン®︎ と同様に、消化管と中枢神経のドーパミン受容体に作用して、吐き気を抑える効果があります。
吐き気止めは効かないって本当!?
胃腸炎による嘔吐に対して、吐き気止め(制吐剤)が処方されることが多々あります。
しかし、実際には、この薬の治療効果は非常に乏しいといわれています。
いくつかの臨床研究がされていますが
『(日本で小児に使用できる)制吐剤が有効であった』
と証明した研究は今のところありません。科学的根拠のない治療法なのです。
端的にいうと、制吐剤を使用したからといって、吐き気を抑制して脱水を予防できるわけではありません。
ナウゼリン®︎やプリンペラン®︎はガラパゴス化した薬!?
このため、ナウゼリン®︎ やプリンペラン®︎ などの制吐剤の有効性は、日本以外の外国(欧州など)では有効性が疑問視されて、使用していない国も多数あります。
例えば、英国やヨーロッパで出されている「急性胃腸炎の治療ガイドライン」では、日本で日常的に処方されている制吐剤は、治療の選択肢にすら入っていません。
日本を含む一部の国でしか使用されない「ガラパゴス化した薬」といっても過言ではないでしょう。
吐き気止めには副作用がある
さらに吐き気止めには怖い副作用もあります。
例えば、錐体外路症状といわれる神経系の副作用がでることがあります。
錐体外路症状が出ると、手足が震えて動作がしづらくなったり、勝手に手がよじれてしまいます。
薬の有効性は乏しく、副作用があることを考えると、安易に処方され、気軽に使用するのは控えた方がよいかもしれません。
胃腸炎で嘔吐したときの対処法
- 「吐き気どめ」が効かないなら、どうしたら良いのでしょう?
と対処法について詳しく知りたい方もいるでしょう。
水分・塩分・糖分をしっかり摂るのが基本
嘔吐時の対応は、水分・塩分・糖分を少量・頻回にとるのが基本です。
脱水が重度でなければ、水分の経口摂取が治療の中心となります。
ほとんどの胃腸炎は経口補水液で対応可能で、点滴が必要になる子は、実はごくわずかなのです。
点滴に過度な期待をしないでください
保護者の方から、水分摂取は可能で脱水症状の全くない子に
- 「点滴をしてください」
と懇願されることがあります。
おそらく「点滴には何か元気になる薬が入っている」と考えての発言と推察してますが、点滴には経口補水液と同じ成分(水分、塩分、糖分)しか入っていません。
お子さんに痛い思いをさせて点滴するより水分摂取ができているなら、点滴をしないほうが子どもにとっても安心で、苦痛が少なく、安全な治療でしょう。
水分摂取の方法
水分は、少量を頻回に飲ませるのが重要です。
何回も繰り返し飲ませるのは、とても労力はかかりますが、最も確実で安全な方法です。
吐いてしまったら30分ほど休憩して、ティースプーン1杯(約 5 ml)から再開して、5分〜10分おきに、徐々に飲む量を増やしていくと良いでしょう。
最近は、経口補水液の粉なども売っているようです。
急な体調不良(風邪や胃腸炎)や災害に備えてストックしておくと良いでしょう:
どうしても制吐剤や点滴を希望する場合
「どうしても制吐剤を使用して欲しい、点滴をして欲しい」、と思い希望する場合は、
- 制吐剤は効かない可能性が高い
- 制吐剤は神経系の重大な副作用がある
- 点滴は経口補水液(OS-1など)と成分は変わらない
- 点滴はこどもにとって痛み・苦痛を大きく伴う処置
ということを、十分に理解をしたうえで治療を受けましょう。
本当に効く吐き気止めはないの!?
最近、注目されている制吐剤に「オンダセトロン(ゾフラン®︎)」という薬があります。
この薬は、抗がん剤の副作用として出る吐き気・嘔吐に使用されていました。
海外の研究結果ですが、急性胃腸炎の子どもの吐き気止めとして使用したところ、嘔吐回数や経口飲水量が改善した、という研究結果があります。
現に、アメリカなど一部の先進国では、救急外来などで制吐剤として使用されています。
大規模な研究が日本で行われ、薬のコスト面が改善されれば、胃腸炎の吐き気止めとして使用できる可能性が出てくるかもしれません。
小児の胃腸炎による嘔吐に制吐剤は…
- 有効性は乏しいと考えられている
- 神経系の副作用がある
- 基本は少量・頻回の水分摂取
- 点滴は主に水分・糖分・塩分が入っているのみで、経口補水液と効果は変わらない
Dr.KID
◎ 子供が胃腸炎のときは、吐いたもの、下痢などは「次亜塩素酸」入った消毒液がオススメです。消毒というとアルコールが一般的ですが、一部の胃腸炎ウイルスにはアルコールは効かないため、次亜塩素酸入りの消毒液をオススメしています。