熱性けいれんは生後6ヶ月〜5歳で比較的よく見られる疾患です。
詳しくはこちらに記載されていますので、参考にされてください;
今回はこちらの論文をピックアップしました。
ジアゼパム(ダイアップ)は熱性けいれんの再発予防でよく使用されています。
ですが、
「発熱時に入れたけれども、痙攣してしまった(効かなかった)」
「発熱に気づく前に、痙攣してしまい、ダイアップを使用できなかった」
という例をしばしば見かけます。
今回は、ダイアップ(ジアゼパム)って実際にどのくらい有効?、という点に疑問をもち、こちらの文献をピックアップしました。
研究の背景
熱性けいれんは保護者や患者本人に大きな心理的な負担があることを考慮すると、予防に意義はあります。
また、熱性けいれん自体で脳の障害や発達に影響はありませんが、けいれんのため頭部打撲をしたり、けいれんが長引けば、脳が低酸素状態になることもあります。
昔はフェノバルビタール・バルプロ酸が使用されていた
熱性けいれんの予防に、一昔前はフェノバルビタールやバルプロ酸という別の薬が使用されていました。
しかし、フェノバルビタールの有効性と副作用に疑問が投げかけられ、徐々に使用されなくなりました。
ジアゼパム(ダイアップ)の成績
ダイアップ坐薬の使用された研究はあり、再発率は10-36%と推測されています。
しかし、これらの研究はコンプライアンスが低く、研究結果の信頼性に疑問がでています。
このため、ジアゼパム(ダイアップ)の有効性を検討するため、本研究が行われました。
研究の方法
今回の研究はアメリカ合衆国で行われた、無作為ランダム化試験です;
- 熱性けいれんの既往歴がある
- 研究参加に同意が得られた
小児を対象に行われています。
ジアゼパムを使用する群としない群に分けて、熱性けいれんの再発数を比較しています。
Blocked Randomized Trislについて
「Blocked Randomized Trial」という手法が取られています。
通常のRCTですと、治療群 vs. 非治療群(プラセボ)の2群に分けるのですが;
- 12ヶ月以下で治療をする群
- 12ヶ月以下で治療をしない群
- 12ヶ月以上で治療をする群
- 12ヶ月以上で治療をしない群
と4つの群にあらかじめ分けてしまう方法です。
これは、複数の施設でRCTを行う場合、施設毎に偶然、年齢の偏りが出てしまうことがあるため、よく使用される手法です。
年齢により再発率は異なりますので、施設間で患者層や治療成績が異なれば交絡となるため、あらかじめ研究デザインの段階で、それを除外しようとする試みです。
薬の使用方法について
(現在、私たち小児科医が行なっているものと異なりますが)この研究では
- 38.1℃以上を確認したら、すぐにジアゼパム(経口)を使用
- 解熱後24時間を経過するまで使用し続ける
という使われ方をしています。
研究の結果
最終的に406人が研究対象となり、ランダムに治療を割り当てられました。
Loss to follow-upについて;
- 治療群は20人
- プラセボ群は17人
でした。
熱性けいれんの頻度について
治療群は392.3 person-year、プラセボ群は384.3 person-year
だけフォローされています。
ITT解析について
ITT解析では、この期間に治療群は41回、プラセボ群は72回の熱性けいれんを起こしています。
よって、それぞれのIncidence Rate(IR)は;
- 治療群:41/392.3 = 0.1045 per person-year
- プラセボ群:72/384.3 = 0.1874 per person-year
となります。
この比をIncidence Rate Ratio (通称;Rate Ratio)をとると
IRR = 0.1045/0.1874 = 0.558 (95%CI; 0.38 – 0.81)
となり、統計学的な有意差を認めています。
つまり、ジアゼパムを使用したほうが、けいれんの再発するRateは44%ほど低かったといえます。(つまり予防効果があった)
生存時間の解析について
こちらはジアゼパムを使用した群と、使用しなかった群の再発するまでの生存時間を解析しています。
Log-rank testをされていますが、統計学的な有意差はありませんでした(P = 0.06)
とはいえ、2-3年のスパンでみると、再発のriskは7〜8%くらい下がっていそうです。
ジアゼパムの副作用について
三人の患者は重篤と判断される副作用のため研究から除外されました。(詳細不明)
39%(59/153)は中等度の副作用を認めています。
多いものが、ふらつき、傾眠、易刺激性といった神経系の副作用です。
研究の考察
この研究から、ジアゼパムの使用で熱性けいれんの再発が予防できるのは明らかです。
再発を40%程度減少できています。
一方で、中等度の副作用も39%ほど認めています。
リスクとベネフィットは考えるべき
この論文の本文ではジアゼパムの使用を強く推奨していましたが、熱性けいれんは基本的に良性である点を考えると、薬を使用するか否かは、リスクとベネフィットを天秤にかけた上で行うべきといえます。
時々、小児科の教科書に「ジアゼパムを使用すれば、ほぼ再発は予防できる」「副作用は認めない」と拡大解釈されていますが、この結果から慎重に投与すべきなのは明らかでしょう。
疫学的な考察
今回はITT(Intention to treat)解析について少し説明しようと思います。
ITT解析は交絡によるバイアスは除外できるが、選択バイアスは除外できない
「ITT解析=バイアスがない」と時々、勘違いされていることがあります。
まずバイアスですが、大きな枠組み3つあり;
- 交絡によるバイアス
- 選択バイアス
- 情報バイアス(疾患やアウトカムなどの誤分類・計測エラー)
の3つのバイアスがあります。
RCTや(それに伴う)ITT解析は、1の交絡は対処できますが、選択バイアスや情報バイアスは対処できません。
今回の研究でも、loss to follow-upが生じているので選択バイアスはありうると思います。
また、アウトカムのけいれん回数も、問診で聞いたものなので、計測エラーがかかっている可能性もあります。
ITT解析されているから、信頼できるとは限りません。
まとめ
ジアゼパムは熱性けいれんの再発率を40%ほど低下させます。
しかし、副作用も高率に認めるため、リスクとベネフィットは考慮すべきでしょう。
(おまけ:ITT解析を使用しても、バイアスが残っている可能性が多々あります)