第一世代の抗ヒスタミン薬(ペリアクチン・ポララミン・セレスタミンなど)は副作用が多く、小児への使用はかなり慎重に行ったほうがよい旨を以前説明しました。
子供のかぜと抗ヒスタミン薬(ペリアクチン、ポララミン)の副作用
今回は、抗ヒスタミン薬とテオフィリンが、熱性けいれんの持続時間への影響を示した研究をみつけましたので、紹介します。
研究の背景
熱性けいれんの罹患率は小児の7%-8%程度と言われています。
これまで、熱性けいれんを誘発する薬として;
- 抗ヒスタミン薬
- テオフィリン
を指摘した研究がいくつかあります。
しかし、これら2剤は熱性けいれんの持続時間にどのように影響したのか不明であるため、今回の研究が行われています。
研究の方法
今回の研究は;
- 2001年〜2013年に入院した6ヶ月〜6歳の熱性けいれん患者
を対象に行われています。
救急外来で指導医が、「年齢・性別・熱源・痙攣の持続時間・内服薬など」を中心に問診をして、それぞれの情報を得ています。
研究の結果
抗ヒスタミン薬 やテオフィリンを内服していない場合(125人)、熱性けいれんは
- 平均持続時間;4.8分( +/- 6.5分)
- 5分以内に頓挫:69.6% (87/125)
- 15分以上持続:8.8%(11/125)
でした。
抗ヒスタミン薬を内服していると、熱性けいれんは:
- 平均持続時間;4.5分( +/- 5.8分)
- 5分以内に頓挫:69.6% (36/52)
- 15分以上持続:7.7%(4/52)
テオフィリンを内服した場合、熱性けいれんは:
- 平均持続時間;9.1分( +/- 11.3分)
- 5分以内に頓挫:37.5% (3/8)
- 15分以上持続:12.5%(1/8)
抗ヒスタミン薬もテオフィリンも内服していると;
- 平均持続時間;7.0分( +/- 6.1分)
- 5分以内に頓挫:63.6% (7/11)
- 15分以上持続:18.2%(2/11)
表にまとめると
テオフィリンを使用している群はけいれん発作の持続時間が長い傾向にあるように見えます。
研究の考察
サンプル数が少なく、交絡因子による影響が排除されていないため、確定的なことはいえませんが、テオフィリンを内服しているとけいれんの持続時間が長い傾向にあると言えそうです。
一方、抗ヒスタミン薬は単独では特に大きな影響はないように見えました。
研究の問題点:交絡因子によるバイアスについて
今回の研究は年齢・性別など交絡因子は調整されていませんので、おそらくバイアスがかなり混在していると思います。
「交絡因子」といわれても、分かりづらい方が多いので、このように図式かすると理解しやすいと思います。
(この図はDirected Acyclic Graph (DAG)といい、疫学の因果推論でよく利用するコミュニケーション・ツールです)
私たちが研究をするとき、「テオフィリン→けいれん」の矢印を推定しようとしてデータを集めます。
これは治療がアウトカムに与える真の効果(Causal Effect)といえます。
一方で、「テオフィリン←年齢→けいれん」を介した偽りの効果も同時に混在しています(Non-causal association)。
このため、観察研究では統計学的な手法を用いて、年齢による影響を取り除いてあげる必要があります。
交絡因子とはなにか?
交絡因子の「古典的な定義」ですが:
- 交絡因子(年齢)は治療(テオフィリン)と相関がある
- 交絡因子(年齢)は結果(けいれん)と相関がある(治療なしの人で)
- 交絡因子(年齢)は治療や結果より前に決定している
です。
これを全て満たすから「交絡因子」といえるわけではありませんが、一定の指標になります。(このため「古典的」といっています)
今回の研究でいうと、高い年齢の子がテオフィリンの内服を多くうけ、もともと年齢の高い子のほうがけいれんの持続時間が長い場合、年齢による影響を見ていただけかもしれないのです。
まとめ
テオフィリンを内服していると、熱性けいれんの持続時間は長い傾向にあります。
(しかし、この研究だけでは断言は難しいでしょう)