- 『咳はどのくらいで治りますか?』
- 『鼻水はどのくらいかかりますか?』
- 『熱は明日には下がりますか?』
と外来でよく質問されます。
実は、こんな簡単な質問にすら小児科医として答えるのに窮してしまう瞬間があります。
『平均的』な期間ならお答えできます
かぜの一般的な経過については;
- 発熱は1〜3日くらいで治ることが多く、1週間以上は長すぎる
- 咳は1〜2週間、長いと1ヶ月以上かかることがある
- 鼻水は2週間以内に軽快することが多い
と、曖昧な答えを、いつもしています。
おそらく、どの小児科にかかっても、同じようなやりとりをされているのではないでしょうか。
これらの数字は全く根拠がないわけではなく、過去に沢山のお子さんを追跡した研究を参考にしてお伝えしています。
沢山のお子さんの症状の期間を平均した期間ですので、あくまで目安程度にとどめておくと良いでしょう。
あなたのお子さんの症状が何日続くか、小児科医は予測できません
こんなことを言うと、保護者の方々には『無責任』と怒られてしまうかもしれません。
しかし本音を言わせていただくと、実際に診療したお子さん一人一人のかぜの症状が、どれだけ続くのかは、どんな名医でも分からないと思います。
ひょっとしたら、とある外来の先生はもっともらしく、「明日には良くなりますよ」なんて最もらしく言ってるのかもしれません。
ですが、おそらくハッタリで、気休めです。
「明日良くなるか」は保護者の方にとって超重要であるのも、私はもちろん理解しています。
それぞれの家庭には、仕事や予定などありますし、何より1日でも早く子供の体調が回復するのを願うのは、親として自然なことだと感じています。
その反面、どんなに素晴らしく優秀な小児科医でも、「いつ治るのか」という保護者からねかシンプルなニーズにすら答えることはできず、
- 熱は明日下がるのか
- 咳は軽く済むのか
- 鼻水は出るのか
といったことを予測することは、とても困難なのです。
小児科医が外来で行なっていることとは?
保護者の方々には言い訳のように聞こえるかもしれませんが、外来で行なっている診療は、いつまで症状が続くのかを予測することではありません。
受診したきっかけ、胸の音、呼吸の音、顔色などを詳細に診察することで、今すぐに治療が必要なのか、もう少し様子をみて大丈夫なのか、それとも入院が必要そうかの判断をメインにしています。
あるいは、抗生剤など治療が必要となるような合併症を起こしていないか、全身をくまなくみています。
このため、私たち小児科医が行なっている診療と判断と、保護者の方々の求める期待に大きな隔たりがあるのも実感しています。
(もちろん、患者さんの個別の相談にも乗っています)
かぜは薬を飲まなくても自然に治ることがほとんどです
大きな病院で働いていると、近隣のクリニックの先生方の評判をお聞きすることがあります。
しかし、私たち小児科医が思う「良い医者」と、患者さんの考える「良い医者」にはかなり隔たりがあります。
小児科医の考える良い医者とは…
答えのないテーマなのは承知していますが、あえて答えを探してみると「小児科医が良い医者」と考えるのは、
- 「(副作用の危険性を考えて)余分な治療をしない医者」
- 「必要な時に、本当に必要な薬を出す医者」
- 「適切なタイミングで、適切な病院・診療科へ紹介できる医者」
であるのかもしれません。
すべての小児科医の診療は凸凹です
少し意外に思われたかもしれません。
ひょっとしたら、どんな病気でも診れるスーパー小児科医や、すぐに治る薬を出せる医師を想像されるのかもしれません。
ですが、小児科は非常に広く、成人でいう内科の専門科すべてが「小児科」という1つの科に集合しているのです。
それぞれの小児科医には得意・不得意があります。
とある先生は小児アレルギーは非常に素晴らしい診療をする反面、感染症の診療はイマイチかもしれません。
小児循環器で優秀な先生でも、小児の成長・発達の評価がきちんと行えていないケースもあります。
かくいう私も得意分野と不得意分野があり、わからないことは専門科の先生にマメに相談をしていますし、それでよいと思っています。
1人の小児科医が抱え込むのは不可能なくらい、小児科は広い分野なのです。
患者さんの考える「良い医者」とは…
一方で、患者さんが思う「良い医者は」ひょっとしたら
- 話を親身になってよく聞いてくれる先生
- 人柄の良い先生
- 建物が綺麗で受診しやすく、待ち時間の少ないクリニックの先生
- 薬をたくさん出してくれる先生
など、ニーズは様々と思います。
小児科医の考える良い医者と隔たりがあるのは、私は当たり前と思っています。
患者さんにとって大事なことは、ご家族のニーズに即したものでしょうし、それはそれで尊重されなければならないと考えています。
薬を沢山出す医者が良い医者ではありません
時々、外来受診された保護者から「〇〇クリニックは、強めの薬を出してくれるので、すぐに良くなります」とお聞きすることがあります。
ですが、残念ながら、かぜに効く薬はほとんどなく、全ての薬には必ず副作用があります。
強い薬や多くの薬を処方してもらうと、なんとなく安心してしまうかもしれません。
しかし、本当に必要な薬だったのか、一歩立ち止まって考える時があっても良いと思います。
本来は不要であった風邪薬や抗生剤を出され、副作用や耐性菌のリスクを被るのは小さなお子さんです。
時間外受診・開業医・非小児科は、こどものかぜに抗生剤を処方する傾向がある【かぜに抗菌薬は不要】
中には「近隣の〇〇クリニックは新しくて協力な抗生剤を使っているから、我々も負けていられない」と患者さんにとっても、医療のプロとしても全く意味のない争いをしていることが本当にあります。
『本当にいい医療とは何か?』を医療者だけでなく、保護者の方々も一緒に考えていけるようになればいいと考えています。
かぜは自然に治るという感覚も育てましょう
お子さんが小さかったり、初めての子育てですと不安が大きいと思うので、最初は医療機関を頼ってアドバイスをもらったり、ご相談されるのはよいと思います。
これは遠慮しなくて良いでしょう。
私たち小児科医は親御さんに医療的なアドバイスをするのも重要な仕事の1つと自覚しています。
一方で、軽い鼻水・咳で毎週のように受診されて、診察した医師から十分な説明もなく、毎回のように「かぜ薬」を処方され飲ませていると、「かぜが自然に治る」という当たり前のことが、本当に信じられなくなってしまいます。
そんな方々を私を含め、多くの小児科医は沢山診ています。
「かぜをひいた=薬を処方してもらおう」と考えるのは楽です。
本当にかぜに効く薬があり、全く副作用がないのであれば、この考えでもよいと思います。
ですが、現実にはかぜに特効薬はなく、薬には副作用もあります。
軽い咳、少しの鼻水だけで元気なら、『様子をみてみる』という選択肢があってもよいと思います。
こどもの風邪に保護者の方々が慣れてきて、症状が軽いのであれば、薬を飲まずに様子をみるという選択肢を考えてもよいと思います。
どのように小児科を利用するべきか
答えのないテーマですし、ご家族の考え方や、居住している地域によっても異なると思います。
1つ言えることですが、保護者の方々が、お子さんの様子をみて判断がつかない時は受診されてもよいと思います。
(小児科医として、お子さんの体調に適切な判断を下すために我々がいるわけですから)
あるいは、「何か変」と思った時も受診されてください。きちんと勉強している小児科医は保護者の第六感がとても重要であることを知っており、お気持ちを理解してくれると思います。
医療機関に受診することで、お子さんの状態が重症かどうか、すぐに治療が必要かどうかの判断を求めてよいのです。
何度か受診しているうちに、
- このくらいなら家で様子をみよう
- 受診をしたほうがよさそうだ
- 薬はなくても「かぜは自然に治る」
といった感覚を育てて欲しいと思っています。
時に「あの先生が出した、この薬、本当に必要だったのかな」と保護者の方々が疑問に思うことも、私はとても重要だと考えています。