過去に抗ヒスタミン薬による副作用を説明してきました:
こどものかぜに抗ヒスタミン薬が処方されていることがありますが、中耳炎を予防することもできません。
急性中耳炎はこどもでは非常にありふれた疾患で、抗菌薬を用いて治療されます。
しかし、抗菌薬を使用しても、10-20%程度は中耳炎の症状が遷延したり、 33%くらいは1ヶ月以内に再発することがあります。
このような背景から、急性中耳炎の治療に抗菌薬だけでなく、何か追加すればよいのでは?という課題が伺えます。
今回の研究では、急性中耳炎の治療に抗ヒスタミン薬やステロイドを追加した場合に、再発率は症状の遷延が改善するかをみています。
研究の方法
アメリカのテキサスで行われた、ランダム化比較試験です。
3ヶ月〜6歳の乳幼児、179人を対象に行われ、以下のように治療が無作為に割り当てられています:
- 抗菌薬 + プラセボ(偽薬)
- 抗菌薬 + ステロイド
- 抗菌薬 + 抗ヒスタミン薬
- 抗菌薬 + ステロイド + 抗ヒスタミン薬
を5日間行なっています。
抗菌薬はセフトリアキソンを外来で1回筋注しています(日本で行われている標準治療とは大きく異なります)。
ステロイドや抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミン)は、内服で5日間です。
治療のアウトカムは;
- 治療失敗率(治療開始2週間以内)
- 中耳内の液体貯留の期間
- 6ヶ月以内の再発率
をみています。
研究の結果と考察
治療の失敗率について
2週間以内の治療の失敗率は;
- プラセボ(偽薬):21.7% (10/46)
- ステロイド: 15.6% (7/45)
- 抗ヒスタミン薬: 25% (11/44)
- ステロイド+抗ヒスタミン薬:17.4% (5/44)
となっています。
統計学的な有意差は認めていません。
中耳内の液体貯留について
中耳内液体貯留の期間の中央値は;
- プラセボ(偽薬):25日
- ステロイド: 23日
- 抗ヒスタミン薬: 73日
- ステロイド+抗ヒスタミン薬:36日
となっています。この4郡間では、統計学的に有意差がありました。
抗ヒスタミン薬を使用すると、中耳内の液体貯留が長引くことが示唆されます。
再発率について
6ヶ月間の再発率は統計学的な有意差はありませんでした。
疫学的な考察 〜Interaction (相互作用)のみかた〜
薬Aと薬Bを使用した場合、それぞれの薬どうしが影響し合うことをいいます。
この場合;
今回の例でいうと、黒矢印がステロイド、抗ヒスタミンそれぞれが、直接的に臨床的なアウトカムに与える影響です。
赤い矢印が、ステロイドと抗ヒスタミン薬の相互作用といえます。
治療失敗率で相互作用を考える
治療失敗率は以下のとおりでした;
- プラセボ(偽薬):21.7% (10/46)
- ステロイド: 15.6% (7/45)
- 抗ヒスタミン薬: 25% (11/44)
- ステロイド+抗ヒスタミン薬:17.4% (5/44)
ここから、抗ヒスタミン薬は失敗率を上げているようにみえ、ステロイドは失敗率を下げているように見えます。
こういった場合は、基準(reference)を最も治療成績の高いものか、低いものにすると良いでしょう。今回は3をreferenceにします。
ステップ1:まず4つのrisk(R)を計算します
- プラセボ(偽薬):R01 = 21.7% (10/46)
- ステロイド: R11 = 15.6% (7/45)
- 抗ヒスタミン薬: R00 = 25% (11/44)
- ステロイド+抗ヒスタミン薬:R10 = 17.4% (5/44)
一番Risk (R)高いのが抗ヒスタミン薬なので、ここをR00にします。
プラセボは、R00と比べて抗ヒスタミン薬がないだけなので、R01になります。
ステロイド+抗ヒスタミン薬はR10、ステロイドはR11になります。
わかりにくいので、以下のように並び替えましょう。
- R00 = 25.0% (11/44)
- R01 = 21.7% (10/46)
- R10 = 17.4% (5/44)
- R11 = 15.6% (7/45)
ステップ2:リスク比(Risk Ratio)を計算します
- RR00 = 1.00 (25.0% / 25.0%)
- RR01 = 0.87 (21.7% / 25.0%)
- RR10 = 0.70 (17.4% / 25.0%)
- RR11 = 0.62 (15.6% / 25.0%)
Risk Ratio (RR)は、R00を基準にして比の計算をします。
例えばRR01 = R01/R00 = RR01= 0.87となります。
ステップ3:Multiplicativityをみます
リスク比(RR)を使っているので、multiplicativityをみます。(Risk Differenceであれば、additivity(差)をみます)
Multicativityは、RR11の予測値 = RR01 x RR10でみれます。
- RR11の予測値 = RR01 x RR 10 = 0.87 x 0.70 = 0.61
になりました。これは
- [RR11の予測値 = 0.61] ≒ [RR11の計測値 = 0.62]
のようにR11の予測値と計測値はほぼ同じです。
この状態をmultiplicativeといい、相互作用がないことを証明しています。
逆に予測値と計測値が逸脱している場合は、相互作用を疑います。
まとめ
急性中耳炎に抗ヒスタミン薬を使用すると、中耳内の浸出液の貯留が長引く可能性があります。
(今回は相互作用の見方を説明しました)
関連記事:急性中耳炎について