今回はアメリカで行われた内科系の研修医の教育プログラムの論文をピックアップしました。
アメリカでは研修医の労働時間は厳格に定められており、
- 1週間あたりの勤務時間は80時間まで
- 1シフトあたり30時間を超えてはならない
という基準がありました。
この基準が2011年に
- (研修医1年目は)1シフトあたり16時間まで
という制限が加わりました。
研修医の勤務時間を制限することへの懸念
勤務時間を短くすることで;
- 教育の質が落ちるのではないか?
- 医師としての成熟が遅れるのでは?
- 受け持ち患者の機会が減るのでは?
といった点が懸念されていました。
2015年に出されたsystematic reviewでは、勤務時間の制限を短くする新しい方針は、教育の機会が減少し、研修医の幸福度は上がらなかったと報告されています。
今回の研究では、勤務時間の制限を緩くすることで
- 患者を診る時間や教育を受ける機会が増加するか
- 研修医プログラムの責任者や研修医の満足度が上がるか
- 研修医に必要な知識のテストの点数に変化があるか
をみています。
研究の方法
アメリカには179の研修医プログラムがありますが、このうち任意に参加してくれた63のプログラムを用いて研究が行われました。
Cluster Randomized Controlled Trialという手法で、これは人をランダムに振り分けるのでなく、63のプログラムをランダムに2郡にわけて、
- 従来の勤務時間制限(週80時間 + 1シフト 16〜24時間まで)
- 緩い勤務時間制限(週80時間 + 1シフトあたりの制限なし)
としています。
この2つのプログラムで、
- 患者を診る時間や教育を受ける機会
- 研修医プログラムの責任者や研修医の満足度
- 研修医に必要な知識のテストの点数
などを比較しています。
研究結果と考察
患者を診る時間や教育を受ける機会は2つのプログラムで大きさ差はありませんでした。
緩い制限時間を採用したプログラムへの不満
労働時間の制限を緩くし、長時間労働をしたプログラムの研修医は
- 教育の質に対する不満が増え(OR, 1.67; 95%CI, 1.02–2.73)
- 幸福度が下がった(OR, 2.47; 95%CI, 1.47–3.65)
と訴えています。
1シフトあたりの勤務時間が長くなると集中力や疲労はたまるため、教育の質や満足度への不満が出るのは、ある意味当然でしょう。
プログラム責任者の不満は少なかった
一方で、勤務時間の制限を緩くし、研修医に長時間労働をさせた教育プログラムの責任者は、教育の機会に対する不満は少なかったです(OR, 0.13; 95%CI, 0.03–0.49)。
この結果は、おそらく満足度の指標は研修医と責任者では観る視点が違うためでしょう。
試験の点数は変わらない
研修医に必要な知識を問う試験の成績は、両者のプログラムの間で、大きな差はありませんでした。
まとめ
勤務時間の制限を緩くして、長時間勤務をしても、患者を診る時間は変わりませんでしたが、研修医の不満は大きくなっています。
一方で、教育プログラムの責任者の満足度は上がってしまっています。
現場にいる研修医とプログラム責任者では立場が異なるため、ある意味、当然の結果かもしれませんが、この立場によるギャップを埋める必要が今後あるようにもみえます。