今回はこちらの研究をピックアップしました。
『添い寝はSIDS(乳児突然死症候群)のリスクを上げるか?』という疑問に対して、メタ解析という手法で答えています。
SIDS(乳児突然死症候群)について
『SIDS』は『Sudden Infantile Death Syndrome』の頭文字をとってSIDSと呼ばれていて、日本語で乳児突然死症候群といいます。
その名の通り、乳児が原因不明で突然死してしまうことをいいます。
SIDSの危険因子について
SIDSの危険因子はこちらにまとめてあります;
1980年〜90年代に様々な観察研究がされ、うつぶせ寝がSIDSの危険因子と言われるようになりました。
その後、アメリカなどいくつかの先進国は「乳児の仰向け寝」を推奨するようになり、SIDSによる致死率が大きく下がりました。
しかし、仰向け寝のみで SIDSゼロにがなったわけでなく、仰向け以外の危険因子を排除して、可能な限りSIDSのリスクを下げようと試みが今も行われています。
添い寝についてはSIDSのリスクを上げるのか?
添い寝がSIDSのリスクを上げるかどうか、過去に数多くの観察研究が行われています。
その結果は、ばらばらでして
- 添い寝はSIDSのリスクを上げた
- 添い寝はSIDSのリスクは上がらなかった
(*添い寝がSIDSのリスクを下げたという研究報告はありません)
となっています。
国によって添い寝に関する推奨は異なります
研究結果が異なるため、国によって添い寝の推奨は異なります。
例えば、アメリカやドイツは
- 『乳児と添い寝をしないように』
とシンプルに述べています。
その一方でイギリスでは、
- 喫煙者
- 飲酒した後
- 睡眠薬を飲んだ後
- 非常に疲れている時
に当てはまる時に『添い寝しないように』と言及しています。
この研究の目的
過去の観察研究の結果をメタ解析という手法で統合して、
- 添い寝はSIDSのリスクを上昇させるか?
- 月齢の低い乳児のほうがSIDSのリスクが高いか?
を研究しています。
研究の方法
症例対照研究(Case-Control Study)という研究手法を用いて、添い寝が乳児突然死症候群の危険因子であったかを解析した研究を対象として;
- SIDSの定義が適切
- 95%以上のケースで解剖がされた
- コントロール群の選別が明確
- 統計学的に対処されたORが報告されている
を満たす研究をメタ解析に入れています。
メタ解析は「Mantel-Haenszelの固定効果モデル(Fixed-effect model)」が使用されました(*固定効果については、後ほど説明します)。
さらに;
- 喫煙者と非喫煙者
- 12週未満と12週以上
といった項目で分けて解析を行っています。
研究結果と考察
11の症例対象研究が選ばれました。
- 2464人のケース(SIDSあり)
- 6495人のコントロール(SIDSなし)
が解析対象です。
研究全体の結果:添い寝はSIDSのリスクが上がる
研究全体としては、添い寝をしているとSIDSを起こすオッズは2.89倍高かったです。
添い寝はSIDSの危険因子といえる結果です。
喫煙者と非喫煙者で分けてみると…
添い寝をしていない人と比較して、
- 喫煙者が添い寝をしている場合、SIDSのオッズは6.27倍
- 非喫煙者が添い寝をしている場合、SIDSのオッズは1.66倍
に上昇するという結果でした。
このように、喫煙者と非喫煙者でオッズ比(OR)が大きく変わること(6.27倍 vs. 1.66倍)を、喫煙が効果推定(OR )を修飾している(Effect Measure Modification)といいます。
(*統計学者は相互作用(interaction)ということがあります)
非喫煙群では統計学的な有意差はでていませんが、明らかに研究サンプル数が足りていません。今回の、非喫煙者での結果は、慎重に解釈したほうがよさそうです。
*メタ解析では最低5つの研究数が必要といわれています。
生後12週前後で分けてみると…
生後12週前後でみてみましょう。
- 12週未満で、添い寝はSIDSのオッズが10倍あがる
- 12週以降で、添い寝はSIDSのオッズは変わらない
という結果でした。
12週以降はSIDSのオッズが変わらないという結果でしたが、研究数が少ないので、こちらも慎重に解釈したほうがよいと考えます。
「慎重に解釈しましょう」の真意
「慎重に解釈しましょう」と繰り返し記載しました。この真意は、3つの観察研究の結果だけで、なにか結論を出すことは難しいからです。
3つの研究のメタ解析だけでは「非喫煙者であれば、生後12週以降であれば、添い寝はSIDSのリスクを上げない(だから添い寝しても大丈夫)」とは、決して言えません。
論文の方法論に関する疑問
2点ほど、今回の論文を読む上で、疑問がでました;
- 固定効果のみの報告は妥当ではない
- 出版バイアスが評価されていない
の2点です。
1. 固定効果とランダム効果について
この研究では統計モデルが固定効果(Fixed Effect)を使用しています。
固定効果では「研究同士の違いは全て誤差である」というやや無理な仮定を置いています。
私がこの論文の研究者であれば、一般的には保守的なランダム効果(Random effect)を使用したでしょう。
あるいは、固定効果とランダム効果を両方解析して、報告しても良いわけです。
様々な国で異なる状況で行われた研究を固定効果のみで報告するは、あまり好ましくないでしょう。
さらに、メタ解析における出版バイアスについて記載がされていません。これもお作法に近いです。
まず、実際に私が提示されたデータを使用して、ランダム効果を使ってメタ解析をし、その後に出版バイアスを評価してみました。
ランダム効果を用いたメタ解析 ①
こちらの図は、論文上のデータを参考にして、私が自らランダム効果を使用して出した結果になります。
- 著者ら(固定効果):OR = 2.89 (95%CI = 1.99〜4.18)
- Dr.KID(ランダム効果):OR = 2.90 (95%CI = 2.00〜4.20)
と、ほぼ同じ結果になりました。
しかし「I-squared = 59%, P-value = 0.007」となっています。これは、それぞれの研究の結果のバラツキ(Heterogeneityといいます)が大きいことを意味します。
個々の研究をみると、
- Blair PS, 1999
- Blair PS, 2009
の2つが極端な数値を出しております。
極端な研究結果のせいで、全体のメタ解析の結果が偏って出てしまうことがあります。
この2つの研究を除外する前に、出版バイアスも見てみましょう。
2. 出版バイアスの評価
こちらが出版バイアス(Publication Bias)の評価をした図(funnel plot)になります。
Blairらの2つの報告が、他の報告された研究と異質なのは、この図からも明らかです。
この2つを除外して解析をしてみてます。
ランダム効果を用いたメタ解析 ②
こちらが2つの研究を除外した結果です。(私が行った解析です)
保守的な手法であるランダム効果を使って、さらに極端な研究結果2つを除外したものになります。
この方法でも、添い寝はSIDSの危険性を上げていました(OR = 2.22;95%CI = (1.78, 2.78))。
メタ解析も鵜呑みにはできない
「メタ解析は最上級のエビデンス」と称されていることがあります。
ですが、そのクオリティーは様々です。
もちろん素晴らしいメタ解析も多数ありますが、一方で方法論が未熟なメタ解析もあります。
少し酷な話ですが、論文を読んで「信頼できるメタ解析なのか」を判断する能力も必要です。
まとめ
メタ解析の結果から、添い寝はSIDS(乳児突然死症候群)のリスクを上昇させることがわかりました。
特に、生後12週未満、保護者が喫煙者である場合、大きなリスク上昇となります。
一方で、生後12週以降、保護者が非喫煙者である場合は、今回の研究結果のみで『添い寝をしてもSIDSのリスクは上がらない。だから添い寝をしても大丈夫。』と結論を導き出すのは難しいでしょう。
後者については、続報を待ちましょう。
◉ 私個人としてもSIDSの症例を夜間の救急外来で複数経験しています。SIDSでなくとも、添い乳で誤嚥性肺炎・呼吸不全になった乳児もいます。赤ちゃんは赤ちゃん用のベッドに寝かせるのが一番安全と考えています。