前回、システマティック(系統的)レビューとメタ解析の概要について説明してきました。
「システマティック・レビューとメタ解析」と聞くと「最高峰のエビデンス(科学的根拠)」と考えるかもしれませんが、時に方法論が甘く、報告の仕方がお作法通りでないことがあります。
臨床の先生方からすると少し酷な話ですが、読む側もメタ解析の評価の仕方を知って、良い解析か否かを見分ける能力があったほうがよいと考えています。
どのようにメタ解析が行われているかを知ることが、メタ解析を評価をする上で助けになるかもしれません。
今回は、システマティック・レビューとメタ解析において文献の仮説の立て方や検索方法について簡単に解説していこうと思います。
研究の仮説を立てる
(これはメタ解析だけの話ではありませんが)臨床研究の仮説を立てる上で大事なのは2点で、
- 治療(exposure)とアウトカムを明確にする
- 臨床的 or 公衆衛生上、なぜ重要なのかを明確にする
の2点につきます。
治療/暴露因子とアウトカム(結果)を明確に
- 治療・介入・暴露を明確に
- アウトカムを明確に
の2点が特に重要です。例えば「ビタミンDが致死率を減らす」と仮説を立てるのはOKですが、
- ビタミンDの使用量は?期間は?投与経路は?
- 死亡の原因は?追跡期間は?
など、さらに仮説を明確にする必要があります。
また、「時制」の確認も必要です。目的とする治療や暴露は、必ずアウトカムの前でなければなりません。
なぜそのテーマを選ぶのか?
システマティック・レビューとメタ解析をする前に、
- 臨床医
- 研究者
- 医療政策側
など、どの読者をターゲットにして、なにが重要なのか、一度考えてみてもよいでしょう。
例えば臨床医がターゲットであれば、議論の余地のある(controversialな)治療をメタ解析で決着させるという発想でもよいでしょう。
例えば、2000年前後は「川崎病にステロイドは禁忌」とまで言われていた時代もありました。
いまだに「アンチ・ステロイド派」は根強く残っており、時にヒステリックに学会で議論をしています。
しかし、2010年以降にステロイドの有効性を示した報告(主にRCT)が多数現れ、最終的にメタ解析でその効果は確固たる地位になりました。
この「研究の仮説を立てる」作業は、論文のintroductionやmethodに通ずるので、深く掘り下げて考えたり、過去の文献を探してみるとよいでしょう。
選択基準と除外基準を明確にする
治療とアウトカムを明確にする点を解説していきましたが、ここでは選択基準(Inclusion criteria)と除外基準(Exclusion criteria)について説明していきましょう。
この選択基準と除外基準は表裏一体でして;
- 参加者の特性
- 治療とコントロール
- アウトカム
- 研究デザイン
- 言語や出版年
などで選択するか、除外するかを考えると良いでしょう。
参加者の特性
参加者の年齢、性別、人種、居住地域、基礎疾患について考えてみると良いでしょう。
例えばBCGワクチンの有効性を見たい場合、
- 乳児を対称にするか?
- 先進国も途上国も入れるか?(人種・居住地域)
- 健常児のみを対象にするか?
といった点を明確にする必要があります。
治療とコントロールについて
これは先ほどの「仮説を立てる」に被りますが、治療群とコントロール群の2群を明確に定義する必要があります。
治療群は
- 同じ治療がなされているか?
- 治療のばらつきはどの程度まで許容するか?
コントロール群は
- プラセボ(偽薬)か?
- プラゼボ出ない場合、アウトカムに与える影響はどうか?
といった点を明確に定義しましょう。
アウトカムについて
アウトカムについても、
- 何をアウトカムにするか?
(疾患の発症?死亡?など) - 連続変数(入院日数など) or 二項変数(死亡など)
を考えておきましょう。
研究デザインについて
- ランダム化比較研究(RCT)
- コホート研究
- 症例対称研究
などが主に対称になると思います。
理想的にはRCTが最低5〜6個あるテーマを見つけるのが、出版への近道です。
また、仮にメタ解析がすでにされていても、3〜4年以上前のもので、新しいRCTなどが多数でている状況でしたら、テーマが被っても構いません。
その他
その他、
- 言語(英語のみにするか、日本語なども検索するか)
- 出版年は考慮するか
などもあらかじめ決めておきましょう。
文献検索について
研究テーマが明確になったら、次は文献の検索です。
データベースについて
まずは、どのデータベースを使用するのか決めましょう;
といった「Citation database」を使用するのが一般的です。
PubMedを使用する方が多いですが、近年は2つ以上のデータベースを使用することもあります(例えば、PubMedとEMBASE)。
その他、
- ISI Web of Science
- Psychinfo
- CINAHL
といったデータベースを使用することもあります。
最近はGoogle Scholarを使用している論文も見かけますが、「Non citation database」といわれるデータベースですので、正確性が劣り、バイアスが入ってしまうことがあります。
Google Scholarを使う場合は、PubMedなどの「Citation database」と組み合わせて使用するほうが無難でしょう。
グレーな文献をどうするか?
「グレーな文献」というと、
- 出版はされていないが、学会などで報告された抄録
- ClinicalTrials.govなどに載っているだけの報告
- 副作用など報告システムに掲載されたもの
(FDA Adverse Event Reporting SystemやVaccine Adverse Event Reporting System (VAERS))
などが該当すると思います。
特に学会などの抄録の問題はよく遭遇しますので、文献検索の前にどうするか決めておきましょう。
文献検索
文献検索では単語を決めて検索します。
定義した「治療」と「アウトカム」を入れることが多いですし、他に絞り込みでキーワード(研究デザインなど)を入れることもあります。
大事なことは必要な論文が包括的に検索できるか、という点でしょう。
特に、有効性が否定された論文「null finding」は、検索から外れやすい傾向にありますので、注意しましょう。
例えば「糖尿病(Diabetes)」と「結核(Tuberculosis)」について検索したい場合、例えば以下のように検索ワードを決めることができます。
MeSHとは「Medical Subject Heading」の頭文字をとったもので、PubMedのトップページの検索をスクロールすると表示されます。
MeSHの機能などを使って文献検索をし、結果をEndNoteやExcelなどで読み込みましょう。
MeSHだけだとうまくヒットしないこともありますので、そのような場合は通常の「text term」検索でも良いでしょう。
文献を管理するソフトウェア
ほとんどの方がEndNoteを使用していると思いますが、EndNote以外にも
- Covidence
- SRDR
といった管理ソフトもあります。
先日、Covidenceというソフトウェアを使用してみましたが、かなり使いやすかったので、今後、普及する可能性はあると思います。
パートナーを見つける
システマティック・レビューにおいて、実はパートナー探しが非常に重要です。
1000以上の文献がヒットすることが多く、これを根気強くみていかなければなりません。
研究のパートナーのやる気がなかったりすると、一向に進まないので、研究の趣旨を理解して、根気強く協力してくれる信頼できる方を選ぶと良いでしょう。
あと、メタ解析に慣れてくると「一緒にやりませんか?」と誘いがくることがあります。
しかし、誘ってくるのはいいのですが、この面倒な文献の評価を完全に丸投げされることもありますの(過去に何度かありました)。
パートナーに誘われた際には、自分がメタ解析でどのような役割をすればよいか、事前に確認するようにしましょう(研究者・臨床医にも、ブラック労働を押し付ける方が多数います)。
文献の評価について
最低でも二人以上の研究者が文献を個別にチェックし、どの研究を組み入れるかを選んでいきます。
当然、意見が一致しない場合もありますので、その時は
- 第三者に評価を依頼する
- 意見が一致するまで議論をする
といった対応をします。
Figure 1を作る
文献の評価は多いと月単位でかかることがあります。評価がおわったら、Figure 1を作ってしまいましょう。
参考文献
システマティック・レビューとメタ解析をする場合、お作法が重要になりますので、少なくとも以下の文献2本は読んでおいたほうがよいと思います:
まとめ
今回は研究仮説をたてて、文献検索をする方法のところを簡単に解説してきました。
実際に研究をすると、ここの道のりは果てしなく長く、根気がいります。
次回は選んだ研究のデータの抽出について説明していこうと思います。
おすすめ本はこちら
メタ解析シリーズを最初から読む