小児科

【小児の歯】テトラサイクリンは本当に8歳未満で使用してはいけないのか?【歯牙黄染】

先日、NS先生のツイートで知りました。 

 テトラサイクリン系は

  • テトラサイクリン(アクロマイシン®︎)
  • ミノサイクリン(ミノマイシン®︎)
  • ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)

などが代表的です。

小児で最もよく使用される疾患は、マイコプラズマ肺炎と思います。

マイコプラズマ肺炎はマクロライド系の抗菌薬(クラリス®︎、ジスロマック®︎)に耐性であることが多く、治りづらいときにテトラサイクリン系の抗生物質が選択肢に入ってきます。

しかし、テトラサイクリン系は8歳未満では歯牙黄染のリスクがあるため、使用は控えるのが原則でした。

今回は、数多くあるテトラサイクリン系抗菌薬のうち、ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)は歯牙黄染を起こさないかもしれない、という論文をみつけましたので、こちらで紹介させていただきます。

 

研究の背景

1959年にテトラサイクリン系の抗生物質で歯牙黄染が報告されました。

歯牙黄染という副作用は、20〜90%で生じるとその後に報告され、8歳未満の小児では禁忌とまで言われるようになりました。

ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)は何が違うか?

ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)は、第二世代のテトラサイクリン系で;

  • カルシウムへの結合能力が低い
  • 半減期が長い
  • 脳血管関門を通過する

と報告されています。

「カルシウムへの結合能力が低い」ので、ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)は歯牙黄染を起こしづらいのでは、と推測されます。

現に、ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)で歯牙黄染が起こったとする報告はありません。

今回の研究では、ドキシサイクリンを使用された患者を追跡し、歯牙黄染が生じていないか確認しています。

 

研究の方法

  • 0〜8歳
  • 1994〜2015年に Turku University Hospitalに入院
  • ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)を使用された患者

を対象に行われました。

退院後も通院してもらい、歯の状態をチェックしてもらっています。

歯の状態は写真撮影もし、複数の歯科医で黄染を確認しています。

(カメラはCanonの7D cameraを使用↓↓)

 

 

研究の結果と考察

合計38人のデータを確認しました。

  • 平均年齢 4.7歳(0.6〜7.9歳)
  • 平均治療期間 12.5日
  • 点滴→経口投与は46%(18人)
  • 経口のみは31%(12人)
  • 点滴のみは23%(9人)

でした。

歯の状態について

テトラサイクリン系の抗生物資特有の副作用として

  • 歯牙黄染
  • エナメル形成不全

がありますが、いずれも認めませんでした。(0/38)

過去の研究も追加して検討

今回の研究では38人中0人という結果でした。

過去の報告例を足すと、歯牙黄染などの副作用は127人中 0人という結果になります。

(月齢2ヶ月未満の早産時で、1例だけ報告があります)

私的(Dr. KID)な考察① 〜真の値はどこに?〜

少し統計学的な検討をしてみましょう。

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127人中0人という結果の95%信頼区間を簡単に出すには、binomial distribution(二項分布)を仮定すれば良いでしょう。今回は0〜2.86%という結果になりました。

38人中 0人という結果の95%信頼区間は

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0〜9.25%という結果になります。

127人中 0人だからといって、本当に 0%かどうか、あるいは 0%にかなり近いくらい頻度が低いのがわかりません。

今後もデータを蓄積して、安全性の検証をする必要があるといえます。つまり、サンプルサイズを増やしていければ、より真の値に近づいていきます。

私的(Dr. KID)な考察② 〜一般化は慎重に〜

今回の研究では

  • 6ヶ月〜8歳の小児
  • ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)を使用

に限定されているため、一般化(外的妥当性)についてはわかりません。

今回の結果のみで

  • 6ヶ月未満も大丈夫
  • 他のテトラサイクリン系も大丈夫(ミノサイクリン(ミノマイシン®︎))

というのはNGでしょう。このあたりはNS先生もおっしゃってましたね。

まとめ

ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)を使用した38人で、歯の副作用は認めませんでした。

過去の研究とあわせた127人でも、歯牙黄染などの歯の副作用は認めていません。

ドキシサイクリン(ヒブラマイシン®︎)は6ヶ月〜8歳でも安全に使用できるのかもしれません。

ミノサイクリン(ミノマイシン®︎)の結果も待たれます。

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。