先進国を含め、むし歯は小児の公衆衛生上の重要な問題です。
前回は、むし歯予防として水道水へのフッ素添加(Fluoridization)について解説してきました。
この政策の有効性は過去の研究で証明されていますが、実際に水道水にフッ素添加をするか否かは、各国でも議論が分かれています。
前回、天然に含まれるフッ素の量について、簡単に説明してきました。
- 海の水:1 mg/L
- 川の水:0.5 mg/L
- 地下水: 0.5〜2800 mg/L
- フルーツや野菜: 0.1〜0.4 mg/kg
- 肉:0.2〜1.0 mg/kg
- 乳製品:0.1〜0.4 mg/kg
- 麦や米: 〜2 mg/kg
- 魚: 2〜5 mg/kg
- お茶:0.04〜2.7 mg/日
ほどのフッ素が含まれると言われています。
今回は、ヒトにおけるフッ素の摂取量と、フッ素の副作用について、簡単に説明していければと思います。
フッ素の摂取について
ヒトはどこからフッ素を摂取しているのか?
上に示したように、自然界には普通にフッ素があり、人工的に摂取をさけようにも、食事や飲み物から摂取しています。
住む地域・国などにより異なるとは思いますが;
- 40%〜70%は飲料水から
- 20%程度は歯磨き粉から
- 残りは食品から
摂取をしていることが多いです。
フッ素の体内での代謝について
飲料水、歯磨き粉、食品などから摂取したフッ素のうち、75%〜90%は消化管で吸収されます。
消化管で吸収された後は血液中に移動し、全身に分布します。
フッドはカルシウムの多い組織(骨や歯)を好むため、99%のフッ素は骨や歯に沈着します。
フッ素の摂取量の上限について
例えば、日本人の成人は、0.4〜1.8 mg/ 日のフッ素を摂取していると言われています。
成人であれば上限は 10 mg/ 日ですので、普通の生活をしている分には安全といえます。
上の表に年齢(と目安の体重)別にみた推奨量と、上限を記載しています。
フッ素の過量摂取について
「フッ素のことはよく知らないし、過量摂取とか大丈夫でしょうか?」
と疑問をもった方がいるかもしれません。
フッ素の過量摂取による副作用も急性と慢性があります。
急性の副作用について
フッ素を急激に過量摂取してしまうと;
- 吐き気・嘔吐
- 腹痛
- 下痢
- けいれん
- 昏睡
といった副作用が起こります。
摂取量としては、 2〜5 mg/kg (体重 1kgあたり 2〜5 mg)で、これらの副作用が起こるといわれています。
水道水のフッ素濃度が 30〜1000 mg/Lに達すると、危険域と考えられています。
例えば、アメリカの水道水のフッ素濃度は 0.7 mg/L程度にコントロールされているため、危険域からは非常に低い値にあるのが分かります。
慢性の副作用について
急激の過量摂取でなく、長い期間にやや多めのフッ素を摂取し続けても副作用が出ることがあります。
例えば、
- 0.7〜2.4 mg/L: 歯のフッ素症(軽症がほとんど)
- 2.7〜4.0 mg/L: 骨のフッ素症
- 2.5〜4.0 mg/L: 知能や神経機能の低下
- 2.0 mg/L 〜 : 甲状腺は下垂体の異常
- 4.5 mg/L 〜 : 発達の異常
のように、水道水のフッ素濃度と副作用が報告されています。
日本でも水道水のフッ素添加が行われたことがあります
日本でも水道水へのフッ素添加が行われた時期がありました(宝塚市、京都市、沖縄など)が、フッ素濃度のコントロールが不十分(2 mg/L)で、その結果として歯のフッ素症にかかる人が多く出てしまいました。
アメリカなど、海外における水道水のフッ素添加では 0.7〜1.2 mg/Lにコントロールされていますので、コントロールが不十分であったのがお分りいただけると思います。
まとめ
今回は、水道水のフッ素添加における推奨濃度と、上限を超えた場合の副作用(急性と慢性)を説明してきました。
次回は、水道水のフッ素添加が、実際にどの程度効果があったのか、実例を解説してみようと思います。
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