今回はこちらの論文をピックアップしました。
Booklet for Childhood Fever in Out-of-Hours Primary Care: A Cluster-Randomized Controlled Trial
発熱などで小児科外来に受診すると、病気の説明書のプリントを貰うことがあると思います。
研究の背景
発熱で小児科外来を受診することは多いでしょう。
保護者の方々は日中は働いているため受診するのが難しかったり、こどもは得てして夜に発熱することが多いです。
▪️ オランダの実情
(今回の研究が行われた)オランダでは、時間外受診した小児の発熱のうち25%〜33%程度で抗菌薬が処方されていました。
時間内受診と比べて時間外受診は抗菌薬の処方率が2倍以上高いといわれています。
▪️ なぜ抗菌薬が処方されるのか?
オランダで行われた研究では
- 保護者からの要望
- 主治医が感じている保護者からのプレッシャー
が抗菌薬の処方に関連していたとする報告もあります。
その反面、多くの保護者は本来不要な抗菌薬の処方は希望しておらず、発熱や感冒症状についてきちんと説明を希望しているのかもしれません。
過去の研究では、時間内受診に限ってですが、保護者にパンフレットを使用すると抗菌薬の処方率が減った研究結果があります。
今回の研究では時間外受診において、同様の研究がされました。
時間外受診の場合、夜間や混み合った休日ですので、より時間的な制約が予想される状況です。
研究の方法
Cluster RCTについて
クラスターランダム化比較研究(Cluster Randomized Controlled Trial)が行われました。
通常、ランダム化比較研究というと、研究に参加する「人」にランダムに治療を行います。
Cluster RCTの場合、「Cluster(クラスター)」として施設や地域単位でランダム化を行われます。今回は施設を「Cluster」としてランダム化しています。
研究参加の施設について
- 20の家庭医
- 約350万人の医療圏(対象は3ヶ月〜12歳)
- 2015年11月〜2016年6月
- 夕方5時〜朝8時 or 休日の時間外受診
を対象に研究が行われました。
オランダでは原則、家庭医に受診しないと二次・三次病院(入院できる施設)に受診できないようになっています。
冊子について
保護者に配る冊子には
- 小児の発熱や感冒症状について
- 感冒症状の持続期間について
- 解熱剤の使用方法と量について
- 熱性けいれんや発疹へのアドバイス
- 抗菌薬の有効性と危険性
について記載されており、保護者と医療者で病気に対する相互理解を深めるために作られています。
研究のアウトカムについて
- 抗菌薬の処方率
- 時間外の再受診率
などをみています。
研究の結果と考察
冊子を使用しても全体として抗菌薬の処方率は変わらない
赤の①が結果に該当します。
全体として、冊子を使用しても抗菌薬の処方率は変わりませんでした。
青の③は、冊子を実際に使用したか否かを考慮した解析結果になります。
実際のパンフレット使用率は28%ほどのため(7割強の患者へは冊子を使用してくれなかった)、クリニックのコンプライアンスを考慮にいれた解析になります。
コンプライアンスを考慮すると、抗菌薬の処方率は低下していました。
冊子を使用しても再受診率は変わらない
緑の②が結果になります。
冊子を使用しても
- 2週間以内の再受診率
- 6ヶ月以内の再受診率
- 二次医療機関期間への紹介率
はかわりませんでした。
唯一、抗菌薬以外の処方率(解熱薬や気管支拡張薬)は、冊子を使用した群で減少していました。
ITT解析とPer protocol解析について
最初の①の結果はITT解析になります。
ランダム化して冊子をするよう指示されたクリニックと、そうでないクリニックにわけで解析したためです。
この場合、コンプライアンス(実際に冊子を使用したか否か)は考慮せずに解析をします。コンプライアンスが高くても、低くても、この結果にバイアスは混入しません。
一方、per protocol解析の場合、実際に冊子を使用したか否かでアウトカムを比較します。
この場合、実際に冊子をしたか否かのコンプライアンスにかかわる因子が交絡となることがあります。例えば、抗菌薬の使用に懐疑的だった保護者であれば、当然、アウトカムに対して良い方向に向かうからです。
ITT解析とPer Protocol解析の意味合い
RCTにおいて、ITT解析は交絡を無視できるため、選択バイアスや情報バイアス(誤分類など)がなければ、解析結果は妥当なものになります。今回のケースでいうと、冊子による教育そのものを評価しているわけではなく、「冊子を配りましょう」という方針・政策を評価しているといえます。
一方で、Per Protocol解析をする場合には交絡因子は無視できません。なぜなら、ランダム化を行った後、それに従うか否かは別の因子で決まるからです。このため、研究結果にはバイアスが生ずることがあります。このため、著者らは③のper protocol解析の時には交絡因子を統計学的に対処しているのです(= adjusted OR)。
まとめ
「時間外受診に対して冊子を使用して説明する」という方針では、抗菌薬の処方率は変わりませんでした。
今回の結果は、クリニックのコンプライアンスが低かった点が一因であるかもしれませんね。
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