小児科

【論文】インフリキシマブ(レミケード®︎)は既に冠動脈病変のある川崎病の初回投与するメリットはあるか?

インフリキシマブ(レミケード®︎)は生物学的製剤といわれ、TNF-αという炎症の原因となる物質を阻害することで、その効果を発揮します。

川崎病は全身の血管の炎症が病態でして、この炎症をいかに早く止めるか?は治療の鍵でして、様々な臨床試験が行われています。

川崎病の標準的な治療法は、

  • 免疫グロブリン(IVIG)
  • アスピリン

でして、近年は重症型の場合にステロイドを追加しています。

これらの治療は、川崎病の最大の合併症である冠動脈拡張(瘤)ができていないことが前提でされる治療であり、すでに冠動脈が拡張してしまって受診された場合の初回治療については、まだブラックボックスな部分が多いです。

今回の研究では、冠動脈病変が既にある川崎病に対し、標準治療にインフリキシマブを足す利点があるかをみています。

研究の方法

今回の研究はアメリカのコロラド州にある小児病院で2009〜2016年にかけて行われました。

対象は、

  • 初診時に川崎病による冠動脈病変がある

患者になります。

こちらの病院では、

  • 2014年まで:IVIG+アスピリン
  • 2014年以降:IVIG+アスピリン+インフリキシマブ

の治療がされていたため、この前後の治療方針の違いを活かしています。

アスピリンは日本とは異なり 80-100 mg/kg/day、インフリキシマブは 5 mg/kgを投与されています。

アウトカムは主に

  • 初回治療の反応性(熱が下がるか否か)
  • 入院期間
  • CRPの変化
  • 冠動脈径の変化
  • 副作用

をみています。

研究の結果と考察

69名が入院し、

  • IVIGのみ 34名
  • IVIG + インフリキシマブは35名

となっています。

初回治療への反応・不応性について

川崎病は発熱した状態で入院するため、治療開始後に解熱したか、24〜48時間以内に再度発熱しないかは重要な指標となります。

治療に不応だったのは(つまり、しっかり解熱しなかった)

  • IVIGのみ:34人のうち15人(44.1%)
  • IVIG + インフリキシマブ:35人のうち4人(11.4%)

となっています。

著者らはこれをOdds ratioで評価し、OR = 8.1 (95%CI, 2.26〜37.5)と統計学的な有意差を認めました。つまり、インフリキシマブを追加したほうが、初回治療への反応性が改善しています。

そのほかのアウトカムについて

そのほかのアウトカムとして(IVIGのみ vs. IVIG + インフリキシマブ)、

  • 入院日数:5.82日 vs. 3.75日
  • CRP減少:0.43 vs. 0.37
  • 副反応:6 (17%)vs. 1(3%)
  • 冠動脈径:両群とも有意差なし

と、いずれも統計学的な有意差はありませんでした。

副反応として、無菌性髄膜炎(2例)や溶血性貧血(2例)を認めています。

私的考察:ORの使い方として

ひょっとしたらお気づきの方がいるかもしれませんが、

  • OR = 8.1 (95%CI, 2.26〜37.5)

とORが大きくでています。ですが、データをみると44% vs. 11%と四倍ですので、ORとの解離が大きくなっています。

数学的にはどちらも正しいのですが、ORはアウトカムがレア(多くは5〜10%以下)でない場合に使用すると、本来計測されるはずのRisk Ratioとの解離がおきます。

つまり、「1 < RR <<< OR」となってしまうのです。

今回の結果をRisk Ratioを踏まえた計算をすると、以下のようなアウトプットになります。

  • RR 3.86(95%CI, 1.42〜10.5)

となっており、こちらのほうがしっくりくると思います。

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私的考察2:交絡因子について

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今回の研究では年齢と性別のみ、交絡因子として対処されていました。おそらくサンプル数が少ないので、そのような手法を選択したのだと推察しています。

時々、「Table 1のP値をみて、交絡因子であるか否かを決定する」という決断がされていることがあります。ですが、基本的にこの考え方は誤りです。(詳しくはModern Epidemiologyを読んでみてください)

上の表をみて、

  • CRPは両群で異なりますか?
  • 血沈は?
  • 血小板は?

と考えてみてください。

統計学的には有意差はありませんが 、私は両群に差(違い)があると思います。

おそれくこの症例が10倍、20倍と増えたら、同じ値でも統計学的には有意差がでてきます。

本質的には、今回の研究も、サンプル数が10〜20倍になった研究もかわりはなく、どちらも交絡因子は存在します。そして、今回の研究では、対処できなかった交絡は十分に残っているのです。

交絡が残っていると、計測された値(OR = 8)は真の値から外れてしまうことがあります。このことをバイアスと呼んでいます。

(*真の値とは、理想的なRCTをした場合に得られる治療効果(OR)というとわかりやすいでしょう)

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まとめ

今回の研究では、既に冠動脈病変のある川崎病に対し、インフリキシマブを併用することで治療反応性の改善が示唆されました。

とはいえ、サンプル数も少なく、交絡の対処も不十分な結果になりますので、質の高い研究の結果が待たれます。

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ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。