小児における鉄欠乏性貧血とピロリ菌の関連性を知りたい方へ
成人領域では鉄欠乏性貧血とピロリ菌の関連性は有名!?ですが、小児でも同様に貧血の原因になるといわれています(意外と小児科医でも知らない方がいるくらいです)。
「本当にピロリ菌のせいで鉄分が不足して貧血になるのでしょうか?」と疑問を抱いている方もいるかもしれません。
そこで今回はこちらの論文をピックアップしました。
本記事では下記の内容を解説します。
本記事の内容
- ピロリ菌と鉄欠乏性貧血の背景
- 研究の方法
- 研究の結果と考察
こちらの論文はJournal of Tropical Pediatricsに掲載された研究です。
ピロリ菌感染を伴う鉄欠乏性貧血でも除菌と鉄分の補充が同時に行われることがあり、たまたまピロリ菌感染と鉄欠乏が同時に生じているのか、ピロリ菌によって鉄欠乏が生じているのか悩ましいです。
この論文では、除菌を先に行い、鉄不足が解消されないか検討しており、非常にユニークな研究となっています。
研究の背景
ピロリ菌と病気の発症について
主に成人領域での研究になりますが、ピロリ菌は、
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍・十二指腸潰瘍
- 胃癌
との関連性が報告されています。
ピロリ菌と小児の貧血について
ピロリ菌感染によって貧血が生じる詳細なメカニズムははっきりしていませんが、
- 慢性胃炎による出血・炎症
- 萎縮性の胃炎
などがいわれています。
小児においては、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)と鉄欠乏性貧血の関連性がいくつか報告されており、ピロリ菌を除菌して鉄欠乏を治療する必要があります。
とはいえ、小児において鉄欠乏性貧血の改善を目的に、ピロリ菌を除菌することに対し、懐疑的な姿勢を示す方もいるようです。
そこで今回の研究が行われました。
小児においてピロリ菌を除菌するだけで、(鉄分の補充をしなくても)貧血が改善するかを検討しています。
研究の方法
- ピロリ菌の感染が検査で証明された
- 6-16歳(中央値5歳)
- 慢性疾患がない
- 制酸薬や抗菌薬の使用歴がない
トルコのAnkaraに在住の140人の小児を対象に貧血の有無と鉄欠乏の検査がされています。
ヘモグロビン、MCV、フェリチン(< 10 ng/ml)の値を検査し、
- 鉄欠乏性貧血
- 鉄欠乏(だが貧血なし)
- 正常
の3グループに分けています。
ピロリ菌の除菌は、
- アモキシシリン
- クラリスロマイシン
- ランソプラゾール
の3剤併用で14日間の治療をしています。
研究の結果と考察
研究結果と考察は、
- 貧血と鉄欠乏
- 除菌後の血液検査の変化
を中心に説明していきます。
鉄欠乏性貧血の頻度
鉄欠乏性貧血や鉄欠乏についてですが、
- 鉄欠乏性貧血:9%(n = 18)
- 鉄欠乏のみ:7%(n = 36)
となっています。
他国との比較になりますが、アメリカでも小児の貧血は10〜15%くらいで認めています。
日本の小児でどの程度の貧血があるか、以前調べたこともあるのですが、あまりよい文献を見つけられませんでした(つまり、わかりません…)
除菌後の貧血と鉄欠乏について
除菌成功率は、便抗原でみると90〜95%で成功しています。
鉄分を補充しなくとも、ピロリ菌の除菌をするだけで
- 鉄欠乏性貧血が改善(Hbが平均0.65上昇)
- 貯蔵鉄が増加(フェリチンが4〜14 μg/dL上昇)
しました。
おそらく普段の食事から鉄分はある程度補給できているので、ピロリ菌がいなくなれば、自然と鉄分が体内に吸収でき、鉄欠乏や貧血が改善したものと考えられます。
実臨床としては、
- 貧血と除菌を同時に行う
- 除菌を先に行い、鉄分の補充は後から
で少し迷うかもしれませんね。とはいえ、患者さんのHb値(貧血の重症度)にもよるので、ボーダーライン付近は鉄分の補充は急がなくてもいいのかもしれないですね。
まとめ
今回の研究は、小児の貧血の頻度、ピロリ菌除菌後の鉄動態の変化をとらえた、非常にユニークな研究と思います。
ピロリ菌の除菌は貧血や鉄欠乏の改善に有効性がありそうです。
鉄補充を同時にするかはケースバーケースで柔軟な対応が必要かもしれないですね。