- 「コーヒーを飲んだせいで、トイレが近い」
- 「コーヒーを飲みすぎると(尿量が増えるから)脱水になるよ」
など、コーヒーを飲むことと排尿・脱水を関連づけて話をされることがあります。しかし、この通説には本当に根拠があるか、ご存知ない方が多いでしょう。
そこで、今回はコーヒーと脱水、コーヒーと排尿量をテーマにした論文を解説します。
本記事の内容
- コーヒーに利尿作用があると言われる理由
- 研究の方法
- 研究結果と考察
こちらの論文はPlos Oneというオープンアクセス誌に掲載されています。原文を読みたい方は、上記のリンクからご参照ください。
コーヒーに利尿作用があると言われている理由
「なぜコーヒーに利尿作用があるか?」考えたことがない方が多いと思います。あるいは、単に「カフェインに利尿作用があるから」とステレオタイプに記憶している方がほとんどでしょう。私もそうでした。
実は、コーヒー、紅茶、チョコレートに含まれるカフェインには「アデノシン受容体拮抗作用」があるといわれています。
カフェインがこの受容体に作用すると、腎臓でのナトリウムの再吸収が減り、ナトリウムの尿中排泄量が増えるため、利尿作用があるといわれています。
カフェイン摂取による利尿作用の科学的根拠
カフェイン摂取による利尿作用は単なる生理学の知識でなく、過去に複数の報告がされています。
例えば「大量のカフェインを摂取した場合に利尿作用を認めた」という報告もありますし、実はカフェインの利尿効果は80年も前から研究されているようです。
これまでの研究からわかっていることは、
- カフェインを摂取すると短期的には尿がでやすくなるが
- 習慣的に摂取するとカフェインに対する耐性ができて、利尿作用がなくなる
- 「耐性」は4日ほどでなくなる
といわれています。
カフェインはそうでも、コーヒーは?
- カフェインには利尿作用があった
- コーヒーにはカフェインが含まれている
ここまでは事実です。しかし、
- ゆえに、コーヒーにも利尿作用がある
と類推するにあたり、質の高い研究で効果を検討しなければいえません。
というのも、コーヒーはカフェイン以外にも様々な物質が含まれている一方で、「カフェインのみ」で行われた研究が多数を占めるからです。
今回の研究では、コーヒーvs. 水を飲んだ場合に、脱水が本当に起こるのかを検討しています。
研究の方法
この研究は、
- イギリス(Birmingham)
- 男性
- 18〜46歳
- 3〜6杯のコーヒーを毎日飲んでいる
を対象として、50人に3日間の飲水・食事・運動を制限して行われました。
介入方法
具体的には、対象者は
- 4 x 200 mlのコーヒー
- 4 x 200 ml の水
を飲んでもらい、体内の水分量(TBW)を開始前後で比較しています。
コーヒーを確実に摂取しているか確かめるために、血中のカフェイン濃度も調べています。
研究デザイン
ランダム化クロスオーバーデザインという手法で、コーヒーが脱水の原因になるか調査しています。
ランダム化クロスオーバーデザインでは、
- コーヒーor 水をランダムに割り当てる
- アウトカムを計測し、一定期間は休薬する
- 1とは異なるものを与える
- アウトカムを再度計測する
という方法で行います。
研究の結果と考察
被験者の背景は
- 平均年齢:28.1歳
- 平均身長:181cm
- 平均体重:77 kg
- 平均コーヒー摂取量:979 ml/日
でした。
1日1L近くコーヒーを飲むとは、イギリス人はかなり飲んでいるのですね。
コーヒー摂取と体内の水分量
体内の水分量はコーヒー摂取前後でも、水分摂取前後でも変わりませんでした。
- コーヒー:4 +/- 1.4 kg
- 水分:4 +/- 1.3 kg
コーヒー摂取と排尿量
排尿量も、コーヒーを摂取したからといって増えたわけではありませんでした。
24時間の排尿量は
- コーヒー:2409 +/- 660 ml
- 水分:2428 +/- 669 ml
とコーヒーでも水分摂取でも統計学的な有意差はありませんでした。
コーヒー摂取とナトリウム排泄量
尿中のナトリウム排泄量は、コーヒー摂取したほうが多かったです。
- コーヒー:48.7 mmol(1日目)47.0 mmol(2日目)
- 水分:43.6 mmol(1日目)43.4 mmol(2日目)
尿中ナトリウム排泄が多いと排尿量が多くなりそうですが、それほど大きな差を認めなかったため、尿量にはあまり影響がなかったのでしょう。
まとめ
コーヒーを3〜6杯程度、習慣的に飲んだからといって、特に脱水になりやすいわけではなさそうですね。
排尿量も飲水と変わらないのをみると、単に水分を飲んだから排尿したというだけかもしれません。
一方で、尿中のナトリウムは微量ですが多くなっていました。
安心してコーヒーライフを送ろうと思います。
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