- 「子どもが遊具から転落して、怪我をしてしまいました」
- 「家の中でやけどをしてしまいました」
など、家庭内・家庭外を含め、こどもの事故による傷害で病院やクリニックに受診されるケースは途絶えることはありません。
子供は大人のように、あれこれと予測できないことが多いので、事故を起こしたり、怪我をしたりしてしまうことが多いでしょう。
少し恐ろしい話をすると、1歳以上の小児の死因(死亡の原因)として、上位3位に常に「事故」が入っています。(Safe Kids Japan)
小児科医であれば知っている方が多いですが、実は、この傾向は40〜50年ほど続いています。
このような報告を見ると、同じ傷害がなぜ毎年繰り返されているのかと疑問に思ってしまうことがあります。
「子どもは怪我をするもの」といわれれば、確かにそうなのですが、そこで議論をやめてしまうのは、思考停止のような気がしてなりません。
日々、子供を診療している立場からすると、少しでも予防したいと考える人がいてもいい気がします。
子どもの怪我・事故の責任は?
例えば、公園の遊具でこどもが怪我をしたとします。多くのケースで、病院に受診して治療を受けて、
- 「今度は気をつけてくださいね」
- 「子どもはすぐに怪我をしますから、常に注意してくださいね」
と医療者から指導されるケースが多々あるでしょう。
どうもステレオタイプなやりとりに終始してしまっているのかもしれません。
公園の遊具を管轄している行政や自治体のほうはどうでしょうか。
その地域を管理しているから、事故や傷害が起きている件数などの表面的なことは、報告に基づいて、おそらく把握していると思います。ですが、せいぜい
- 「こどもの事故・怪我は〇〇件です」
- 「気をつけましょう」
と漠然と注意喚起するところで止まっている可能性もあります。
確かに保護者の不注意で起きてしまうケースもあります。
しかし、ひょっとしたら公園の遊具が構造上、事故が起こりやすかった可能性もありうると思います。
ある遊具による1人の重症の子どもの怪我の背景に、実は30〜40人くらいの軽症の怪我が生じていた可能性もありうるのです。
実際、地域の公園を見回してみても、必ずしも安全といえない環境は多数あります。
事故の情報提供は非常に重要
子どもが怪我をして病院を受診された際、大抵、保護者の方々は
- 「私の不注意です…すみませんでした…」
- 「次回からは、もっと気をつけます」
と申し訳なさそうに謝罪をしてきます。
語弊を恐れずに言えば、「保護者自身だけのせいにしないで欲しい」と考えています。
なぜなら、先ほども少し説明した通り、環境・製品の構造そのものに、事故が起こりやすい構造であったり、欠陥があったかもしれないのです。
情報の提供先について
事故による傷害の情報提供先として、
が非常に有名です。こちらでは、様々な事故の症例が記載されています。
一見する安全そう、生活に便利そうな製品も、実は事故が起こりやすかった、という例も中にはあります。
例えば事故の起こった製品として、
- 電気ケトルによる熱傷
- 首浮き輪による溺水
などが記載されています。
Injury Alertの中には、事故現場の写真、情報などを詳細に報告されているものもあり、将来の事故予防につながる可能性があります。
情報が蓄積することで、企業や自治体が動いてくれるケースもあるようです。
知っておいてもよい、身近にできる事故予防策
とはいえ、ご家庭を中心にできる事故予防策もあります。主なポイントとして、
- 運動発達によって異なる起こりやすい事故
- 家庭でできる予防策
の2つを簡単に説明します。
1. 運動発達からみた事故予防
こちらの記事に詳しく書いていますが、それぞれの年齢・月齢により、起こりやすい事故の傾向が異なります。簡単に説明をしますと、
- 生後4ヶ月まで:うつ伏せ寝による窒息やSIDS・ベッドやソファーからの転落
- 生後5〜9ヶ月:誤飲・誤嚥や(ベッド・階段などからの)転落
- 生後1歳以降:誤飲・誤嚥・転落・火傷
年齢を重ねるごとに、活動範囲が広がるため、気をつけなければならない点が増えてきます。
2. 家庭でもできる事故予防
ご家庭でも事故予防はある程度は可能です。ポイントは上の記事に記載しています。
エッセンスだけ説明しますと、
- 誤飲・窒息:4 cm(500円玉)以下のものは、手が届かない場所に(高いところ)
- 頭部打撲:コーナーガード
- 溺水:大人と必ず一緒に入浴する
- 転落:ベッドの柵は常にあげたままにする、柵などで階段に自由に行き来できないようにする
- 火傷:安全ロックのある製品、湯漏れ防止機能の製品
- 自動車・自動車事故:チャイルドシートの着用、ヘルメットで頭部を、パットなどで肘、膝を保護する
などがあります。
まとめ
近年、小児の事故予防も、世界的にはデータを集めて科学的に捉えるようになってきています。
市場に製品が流通した後も薬の副作用を調査し続けるのと同じで、様々な製品もマーケットに出現してから本当に安全なものか、欠陥がないものか、きちんと追跡する必要があるでしょう。
事故を起こしたと聞くと「しょうがない」「運が悪かった」と諦めてしまいがちですが、一定の規則性があり事故が生じていることがあります。
このため、統計学などの科学的な分析によって予測や予防が可能なケースもありえます。
事故をデータ分析して、未然に起こりやすい事故を防ぐ、将来の事故予防に役立てるようなシステムが進んでくることを願っています。
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