1歳未満の赤ちゃん(乳児)は不機嫌になると啼泣することがありますが、理由は様々です。
例えば、
- お腹が空いた
- おむつを替えて欲しい
- 抱っこして欲しい
- 眠りたい
などが多いです。
例えば、何も異常がない生後6週の健常児でも、午後3時〜11時にかけてよく泣く、といわれています。
一方で、言葉として表現できない小児は、重症疾患のサインとして不機嫌になっているケースもあります。
また、小児科は内科のように細分化されておらず、全身をくまなく診察し、鑑別疾患も多義にわたるため、診断の遅れが憂慮されます。
こちらの研究では
- 不機嫌で受診した1歳未満の乳児のうち、重症な疾患と診断されるケースの割合
- 診察や検査が診断にどれくらい寄与しているか
といった2点をみています。
研究の方法
救急現場において常に指導医がいるトロント小児病院で
- 2015年1月〜3月
- 1歳未満の乳児
- 熱がない
- 主訴が「啼泣、不機嫌、かんしゃく、憤怒」
のため救急外来に受診した方を対象に、過去のカルテをレビューしています。
研究の結果と考察
救急外来の全受診患者は37,549人で、0.6%(238人)が研究対象になりました。
- 再受診率は12% (30/238)
- 時間外受診は63%(150/238)
となっています。
対象患者の特徴について
237人の小児が研究対象となりました。対象集団の特徴は、
- 男児:52%
- 月齢の中央値:3ヶ月
- トリアージ時間:5分
- 平均体温:2℃
- 心拍数:136/分
- 呼吸数:34/分
- SpO2:98%
でした。
重症患者数の特徴について
このうち、12人(5.1%; 12/238)が重症な疾患がありました。
- 初診で診断:83%
- 再診で診断:7%
- 尿路感染症が最も多かった(n = 3)
という結果です。
行われた検査について
病歴や身体診察だけで66.3%の重症疾患を特定できています。
検査は574件(平均2.4検査/患者)されており、14.1%(81/574)で陽性でした。
- 尿路検査の実施率は31.1%
- 培養検査の実施率は16.7%
でした。
尿検査の陽性率は尿検査の陽性率は1ヶ月児では10%ほどでした。
熱がなくても1ヶ月未満の新生児には尿検査をする価値があるのかもしれません。
直腸診+潜血検査(3.4%)や眼科的な処置(0.1%)はほとんどされておらず、施行された症例でも全て陰性でした。
雑感
やや古い論文ですが、小児科を代表する雑誌で1つの研究施設のわずか238例のみで掲載されている点に、やや驚いています。
症例数が少ない分、重症の確率や診断率、処置の必要率については、かなり不安定な値と思います。
論文の一般化も少し厳しいと思いますが、1ヶ月児で不機嫌がある場合、尿検査で10%が尿路感染症と診断されている点は小児科医として覚えておいても良い内容と思いました。
1歳未満の熱のない不機嫌で、5%くらいは重症疾患が隠れている点も、慎重な診療を喚起する内容と思います。
ただし、5%という数字にこだわりすぎる必要はないと思います。症例数が少ない分、それぞれの推定値はかなりブレます。例えば二項分布に照らし合わせてみると、2.6〜8.6%が95%信頼区間になります。
まとめ
1歳未満の乳児で、熱がなくても不機嫌な場合、5%ほどで重症疾患が隠れていました。
また、1ヶ月未満の熱のない不機嫌も、10%ほど尿路感染と診断されています。
小児科的には、熱がなくても、救急受診された不機嫌な乳児の診察には注意が必要と言えそうです。