先日、こんなツイートを見かけました。
「牛乳を飲むと身長が伸びる」というのは都市伝説ではなく、日本の児童(食の科学. 2003:310;4-8.)、海外(Arch Dis Child. 2015 May;100(5):460-5.)でもたくさん飲むと身長が1~2.5cmほど上乗せされると報告されています。ただ、牛乳を飲むほどコレステロール値や肥満を悪化させます。
— インヴェスドクター (@Invesdoctor) 2018年5月30日
『牛乳を飲むと背が大きくなりますよ』なんて指導、一度はされたことがあるかもしれません。
私は都市伝説だと思っていたのですが、実は牛乳と身長を研究した論文があると知り、とても興味深かったので今回はピックアップしてみました。
研究の背景
小児肥満は増加しており、一向に減少する兆しがありません。
小児肥満は将来の高血圧、心疾患や糖尿病のリスクが上がることが報告されています。
牛乳の適切な摂取量とは?
アメリカなどでは小児肥満が社会的問題になっており、ミルクを含め高エネルギーな食品を適量に留めることを推奨しています。
例えば、アメリカ小児科学会は、2〜8歳の小児は
- 牛乳はコップ2杯まで(573 ml相当)
- 低脂肪牛乳が望ましい
と推奨しています。
(Dietary recommendations for children and adolescents: a guide for practitioners.)
とはいえ、なぜ牛乳がコップ2杯までなのか、科学的根拠は不明なままです。
というのも、牛乳の摂取量と(BMIに基づいた)肥満を検討した研究は複数ありますが
- 牛乳の摂取量と肥満には関連性は認めなかった
- 牛乳の摂取量が多いと、痩せが多い傾向であった
- 牛乳の摂取量が多いと、肥満が多い傾向にあった
と、バラバラの結果です。
牛乳を飲むと身長が伸びる?
牛乳を飲むと身長が伸びるかどうか、過去に多くの研究がされています。
多くの研究結果で身長が伸びるという報告がありましたが、4〜5歳の小児を対象に行った研究はありません。
このため、今回はこの年齢を対象に研究が行われました。
研究の方法
アメリカで行われたコホート研究(Early Childhood Longitudinal Study)のデータを利用して研究されています。対象となったのは
- 2001年生まれ
- 4歳である
- ランダムに抽出された1万4000人の小児
で、77%が研究の参加に同意してくれました。
保護者に『過去7日間で牛乳をどれだけ飲んだか?』を質問しています。
身長と体重以外に、人種・世帯収入・教育歴・職業なども聴取しています。
横断研究 + 縦断研究
今回の研究は横断研究(Cross-sectional study)と縦断研究(Longitudinal study)の両方がされています。
横断研究では、『4歳時点での牛乳消費量と身長・体重』のデータを解析しています。
この場合、牛乳消費量も身長・体重も同時に情報を収集しているため『横断』といわれます。
縦断研究では、『1年後(5歳)の身長・体重』の情報を再度収集します。
牛乳の消費量が先に得た情報で、身長・体重が後に得た情報になるため『縦断』といいます。
研究結果と考察
横断研究の場合
こちらのFigureが横断研究の結果になります。
図からも明らかですが、牛乳の摂取量が多いと
- BMIは高い(肥満傾向)
- 身長は高い
- 体重・身長比が高い(肥満傾向)
といえます。
牛乳摂取量が少ないグループ(1回未満)と多いグループ(4回以上)では、
- 多いグループの方が1cm ほど身長が高い
- 多いグループの方が0.15 kgほど体重が重い
という結果でした。
横断研究の欠点・問題点
分かりやすいように意図的に「牛乳の摂取量が多いと〇〇が高い」と書きましたが、横断研究では牛乳摂取量と身長・体重・BMIを同時に情報収集しているので、厳密には
- 牛乳摂取量が多いと、BMI・身長・体重が高い
- BMI・身長・体重が高い人が、牛乳を多く摂取している
のいずれかは分かりません。
このことを時制(Temporality)の欠如といいます。
横断研究では時制(牛乳と体重で、どちらが先か・後か)が曖昧なため、コホート研究やケース・コントロール研究より研究結果の重要性が劣る理由の1つになります。
縦断研究の結果
牛乳摂取量をインタビューした1年後に、身長・体重・BMIを計測すると
- 牛乳摂取量が多いと、身長は高い傾向にある
- 牛乳摂取量は、BMIや体重・身長比とは関連がない
という結果でした。
牛乳がBMIや体重・身長比といった肥満に与える影響は1年後にはみられませんでした。
著者らは、牛乳が肥満に与える影響は年齢により異なり、4歳までではないか?と推察しています。
(私個人としては、バイアスの対処が不十分か、BMI for Ageやweight-for-ageがもつ肥満の指標としての正確性が、年齢により異なるのではないかと推察しています。)
まとめ
4歳時の牛乳の摂取量が多いと、5歳時の身長は高い傾向にあります。
4歳時に牛乳の摂取量が多い小児は、やや体重が多い傾向にありましたが、5歳時には体重(肥満)と牛乳の摂取量は相関を認めませんでした。
*牛乳は1歳未満の乳児にはミルクの代わりとして与えないでくださいね。
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