慢性的な便秘は小児の3%〜16%が経験するといわれています。
こどもが便秘に悩まされ、外来に受診するケースは非常に多いです。
およそ3分の1の小児便秘は、成人になってからも便秘が続くと報告されています。
食事と便秘について
食生活と便秘は関連性は多数報告されており、
- 食物繊維の摂取量が少ない
- 果物の摂取量が少ない
- 乳製品の摂取量が多い
と便秘になりやすいと言われています。
牛乳に含まれるタンパク質と免疫学的な反応で便秘を起こしているのでは?と考える研究者もいます。
今回の研究では、牛乳の除去が便秘の治療にどれだけ有用かを検討しています。
研究の方法について
- 2006〜2007年
- スペインのバスク地方に住む6ヶ月〜14歳
- 生後6ヶ月以降に便秘の診断された(Rome III Criteriaにより)
69人の小児を対象に行われました。
甲状腺機能低下症など基礎疾患のある小児を除外されています。
便の硬さの評価
便の硬さは『Bristol Stool Scale』を用いて
- 非常に硬い便
- 硬い便 or 大きな便
- 普通の便
- 柔らかい便
- 水様の便
に分類されています。
研究のデザイン
論文中には明記されていませんでしたが、『Self-Controlled Cross-Over Design』というユニークな疫学手法が使用されています。
まず、受診者全員が普通に牛乳を取っているため、4段階で
- 牛乳を使用した食事をする(1週間)
- 牛乳を除去した食事をする(3週間)
- (2で便秘が改善した場合)再度、牛乳を使用した食事(3週間)
- 再度、牛乳を除去した食事(3週間)
の順に行なっています。
同じ個人で除去と非除去をするため、個人レベル間で起こる交絡によるバイアスをほとんど考えなくてよくなります。
有効性の評価
同一人物で(Self-Controlled)、治療(牛乳除去)とコントロール(牛乳あり)を行う(Cross-Over)ため、『Self-Controlled Cross-Over』といわれます。
- 『2』の時点で有効でない人=『Non-responders(不応例)』
- 『2』で軽快し『3』で増悪し『4』で軽快した人=『Respnder(反応例)』
- 『2』で軽快したが『3』で増悪しなかった人=『Interminate Responder(不確定反応例)』
と分類されています。
牛乳が真の原因であれば、除去すれば便秘は良くなるし、再開すれば悪化するため『Responder』といえます。
一方で、除去して便秘は一旦改善したが、再開しても便秘が悪化しない場合は、真に牛乳が原因かははっきりしません。そのため『不確定』といわれています。
牛乳を除去した際の食事について
牛乳はタンパク質・カルシウム・ビタミンの栄養源ですので、除去する場合は代用食品を摂取する必要があります。今回の研究では
- 2歳以下:加水分解ミルク
- 2歳以上:ライスミルク(穀物ミルク)
が使用されています。
研究の結果と考察
メインの結果はこちらになります。
約半数が牛乳を除去すると便秘が改善
69人に牛乳除去をしましたが、およそ半数である35人は便秘が改善しました。
残りの34人は便秘が改善しなかったため、牛乳除去は有効でなかったと考えられています。
牛乳を再開すると、35人中27人が便秘が再燃
最初の牛乳制限で改善した35人を対象に牛乳を再開したところ、27人が便秘が再開しました。
残りの8人は便秘が再燃しなかったため、牛乳が原因であったかはっきりしません。このため IR (不確かな反応例)とされています。
便秘が再燃した27人に、再度、牛乳制限をすると便秘が改善
便秘が悪化した27人に、もう一度牛乳制限をすると、便秘が改善しました。
この27人(全体の39%)は、牛乳制限が有効性が再現されました。
この27人の特徴は、牛乳制限をして1〜5日で便秘が改善している点です。
一方で、最初の牛乳制限で軽快して、以降は再燃しなかった8人は2〜3週間かけてゆっくりと便秘が改善したようです。
まとめと雑感
およそ全体の4割の便秘患者は、牛乳による便秘で、牛乳を除去すると便秘が改善するかもしれません。
この論文ではあまり触れられていませんが、牛乳を除去するとカルシウム・ビタミン・タンパク質不足に陥る可能性があるため、代わりの栄養源を検討する必要があります。
あるいが、どのように牛乳を再開するのか、まだ検討の余地がありそうです。