『うちの子、知恵熱でしょうか?』夜の救急外来で、受診した子供の母に付き添ったおばあちゃんから、こう聞かれたのを今でも覚えています。
当時、私は小児科研修を始めたばかりで、恥ずかしながら『知恵熱』という単語を知りませんでした。
診察に付き添ってくれたベテランの看護師さんに、あわてて「知恵熱ってなんでしょうか?」ときいたのは、今でもいい思い出です。
知恵熱について
言い訳のように聞こえるかもしれませんが、実は『知恵熱』という医学用語はありません。当然、私の母校の医学部の教育で『知恵熱』は習いませんでした。
生まれて半年くらいたった赤ちゃんの発熱を、昔の人は『知恵熱』と呼んできました。
ちょうど「知恵」がついてくる生後半年くらいに、「熱」がでやすくなるから『知恵熱』と命名されたようです。
昔は乳児が熱を出しても、今ほど色々と検査はできず、発熱の原因を突き止めることができなかったです。
そのため、『知恵熱』という言葉で納得していたという話も聞いたことがあります。
生後6ヶ月以降に発熱しやすいのには理由がある
生まれるまでに母からもらったIgG抗体を100(%)とします。
IgG抗体は時間とともに減少していきます。生後6ヶ月くらいすると、かなり減少しているのがわかると思います。
まだ赤ちゃん自身の免疫は未熟で、生後6ヶ月を過ぎると母からの免疫もなくなってしまうため、かぜ・突発性発疹などウイルスに感染しやすくなります。
このため、生後6ヶ月以降に発熱する乳児が多いのでしょう。
生後6ヶ月くらいの赤ちゃんが発熱すること、昔の人は「知恵熱」と呼んできました。ちょうど知恵がついてくる頃に、熱がでやすくなることから命名されたようです。
最近、頭を使いすぎたりすると「知恵熱」が出ると考えていらっしゃる保護者の方もいるようですが、残念ながら違います。— Dr. KID (@Dr_KID_) 2018年6月6日
生歯熱って知っていますか?
これも「知恵熱」に似た概念なのですが、ヨーロッパなどでは知恵熱ではなく「生歯熱」といわれることがあります。
乳歯が生え始める6−7ヶ月に発熱すると、「生歯熱」といわれていました。
もちろん「乳歯が生え始める頃に熱が出やすい」だけであり、「乳歯が生えるから熱が出る」わけではありません。
まとめ
知恵熱は、知恵がつきはじめる生後6ヶ月くらいに、発熱することが多いため「知恵熱」と呼ばれるようになりました。
「生歯熱」も同様で、乳歯が生え始める頃に発熱することが多く、そう命名されています。しかし、乳歯が生えるから熱が出るわけではありません。
両方とも、乳児の発熱の命名として歴史がありいい言葉なのですが、残念ながら医学用語ではありません。