『牛乳を飲ませるのは1歳すぎてからにしましょう』と外来で指導されることがあると思います。
『なんで1歳まで牛乳を飲ませたらダメなの?』と疑問に思われる保護者の方が多いかもしれません。
今回は、1歳未満の乳児に牛乳を習慣的に飲ませると、鉄欠乏性貧血のリスクが高くなる研究をとりあげてみました。
研究の背景
先進国においても、乳児の鉄欠乏性貧血の頻度は高いです。
乳児期の鉄欠乏性貧血の問題点として、
- 熱性けいれんが起こりやすくなる
- 発達が遅れる可能性がある
- その後の認知機能に影響するかもしれない
など、様々な点がトピックにされています。
生後1歳までの母乳、ミルク(人工乳)、牛乳について
『生後1歳までは、母乳やミルクの代わりとして、牛乳を飲ませない』
が大原則です。
生後6ヶ月頃〜1歳までは、離乳食の導入と、1日あたり500〜600 ml程度の母乳やミルクが推奨されています。
今回は、1歳までは牛乳を使用してはいけない根拠となる論文を解説していこうと思います。
研究の方法
今回の研究は、
- 14000人の乳児(ここから10%のランダム抽出)
- 1991-1992年にイギリス南西部に在住
を対象に行われています。
生後6ヶ月時に選出され、生後8ヶ月・12ヶ月まで追跡されています。
貧血と鉄欠乏の定義
貧血と鉄欠乏、それぞれの定義ですが
- 貧血はヘモグロビン(Hb)10.0 g/dl以下
- 鉄欠乏はフェリチン 16 μg/l 以下
と定義されています。
哺乳のタイプについて
生後6ヶ月の健診で受診された保護者に質問をし、3つのグループに分けました
- 母乳がメイン
- 人工乳がメイン
- 牛乳がメイン
その他
その他、ヘム鉄・非ヘム鉄の摂取量、菜食主義、教育レベル、出生体重、受診時の体重、感染症などの情報も聴取されています。
研究の結果と考察
1338人が研究へ招待され、1250人が参加しました。このうち
- 栄養の評価ができたのは1124人
- 血液検査をうけたのが1079人
でした。
貧血の頻度について
生後8ヶ月時点で
- 母乳メイン:9% (10/113)
- 人工乳メイン:7% (45/687)
- 牛乳メイン:9% (11/126)
生後12ヶ月時点で
- 母乳メイン:11% (11/102)
- 人工乳メイン:3% (15/574)
- 牛乳メイン:5% (5/105)
という結果でした。
人工乳には鉄分が補充されているため、貧血の頻度が低かったのでしょう。逆に、母乳や牛乳メインのグループは貧血の頻度が高くなっています。
鉄欠乏の頻度について
今回の研究では、鉄欠乏は血液中のフェリチンが16 μg/l 以下と定義されています。鉄欠乏は
生後8ヶ月時点で
- 母乳メイン:5% (4/85)
- 人工乳メイン:2% (10/481)
- 牛乳メイン:7% (6/83)
生後12ヶ月時点で
- 母乳メイン:5% (4/83)
- 人工乳メイン:3% (14/477)
- 牛乳メイン:11% (9/84)
という結果でした。
3つのグループでは、牛乳をメインにした場合に、鉄欠乏の頻度が高くなっています。(統計学的な有意差あり)
牛乳を飲む量を増やすと、離乳食からのエネルギー摂取が少なくなる
牛乳の摂取量を600 ml以下 vs. 600 ml以上にすると、牛乳を多く飲んでいるグループは牛乳からのエネルギー摂取が多くなり、逆に離乳食など固形物からのカロリー摂取が少なくなっています。
まとめ
1歳未満で母乳や牛乳がメインの栄養源の場合、鉄欠乏性貧血のリスクが高くなります。
さらに、1歳未満で牛乳を過剰摂取すると、離乳食からの栄養摂取量が減り、鉄欠乏を悪化させる可能性があります。
1歳未満での牛乳を飲ませるデメリットは大きいです。
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