以前、1歳未満の乳児に牛乳を与えると、鉄欠乏になりやすくなると説明しました。
鉄分は不足すると貧血になりますが、それ以外にも熱性けいれんを起こしやすくなるなど報告されています。
今回は、乳児期の鉄欠乏と10年後の認知機能・脳の電気活動について行われた研究をみてみましょう。
研究の背景
『鉄欠乏は脳の発達に悪影響である』と考えられていますが、鉄欠乏が脳の細胞の発達や髄鞘化(細胞同士の情報伝達に必要)に悪影響することがメカニズムとしてあげられています。
髄鞘化は記憶と密接に関連しています。
ここで「鉄欠乏により脳の髄鞘化が乳児期に妨げられ、結果として(脳の海馬を中心とした)記憶力が低下するのでは?」と仮説が立てられます。
このため、乳児期の鉄欠乏と記憶力・脳の電気活動について今回は研究されています。
研究の方法
- 健常に出生した乳児(正期産・正常体重・疾患なし)
を対象に研究が行われました。
貧血・鉄欠乏・コントロールについて
貧血は:
- 血清ヘモグロビン < 10.0 g/dL(生後6ヶ月)
- 血清ヘモグロビン < 11.0 g/dL(生後12ヶ月・18ヶ月)
と定義されています。
鉄欠乏は
- MCV < 70 flfL
- フェリチン < 12 μg/L
などを指標に判断されています。
鉄欠乏のある乳児が発見されるたびに、健常(鉄欠乏のない)乳児が研究に参加しています。
鉄欠乏児には鉄剤を6ヶ月与え、鉄欠乏が改善したかも確認しています。
記憶力のテスト
研究に参加した小児を10歳まで追跡し、10歳時に記憶力のテストを行いました。
テスト中は脳波も撮影し、脳の電気活動も確認されています。
研究の結果と考察
記憶力の正確さは同等
「新しい言葉/古い言葉」を区別するテストでは、鉄欠乏のあった小児と健常な小児では統計学的な有意差はありませんでした。
反応時間とFN400について
問題を出して答えるまでの時間(反応時間)は、鉄欠乏のあった小児のほうが統計学的に有意に遅かったです。
さらに、脳波のFN400の振幅は「新しい言葉」と相関していると言われています。このFN400は、鉄欠乏のなかった小児において、有意に早く出現していました。
(Latency(潜伏時間)が短い:黒がコントロール、灰色が鉄欠乏)
P300の振幅
脳波のP300の振幅は、脳の神経のネットワークを反映していますが、鉄欠乏のなかった小児において有意に大きかったです。つまり、鉄欠乏のあった小児のほうが、神経のネットワーク形成が少ないのではないか、と示唆される結果です。
結果の解釈について
私自身は脳波や記憶の専門家ではないので、この結果のインパクトの大きさがわかりませんが、脳波や潜時といった指標では、乳児期の鉄欠乏が脳の電気的な活動に影響を与えているようです。
一方で、もう少し非専門家のわかりやすいアウトカムを知りたく思いました。
例えば記憶力のテストの点数(平均とSD)や、テスト終了するまでにかかった時間などです。
まとめ
鉄欠乏性貧血が乳幼児期にあっても、記憶力の正確性には影響はありませんでした。
一方で、脳の電気活動(反応時間・活動の振幅)は、鉄欠乏のあった小児のほうが悪い結果でした。
あわせて読みたい