- 『こどものかぜ薬って必要ですか?』
- 『小児には、どの感冒薬に有効性がありますか?』
- 『咳止めを飲んだら早く治りますか?』
- 『鼻水を止めてください』
など、こどものかぜと薬には、切っても切れない関係があります。果たして、これらの薬の有効性をご存知の方はどれくらいいるのでしょうか?
表面的なことでも良いと思うので、普段、お子さんに投与されている薬の有効性や副作用について、知っておいても損はないでしょう。
以前、
- かぜに抗菌薬は不要
- かぜに抗ヒスタミン薬は使用すべきでない
- かぜにホクナリンテープ・ツロブテロールテープは不要
といった内容を、科学的な根拠をもとに当ブログでは記載し、様々な方からコメントをいただきました。
かぜで医療機関に受診すると、抗ヒスタミン薬やツロブテロールテープ以外にも、沢山の薬を当たり前のように処方されることがあります。
しかし、実際に病院で処方されるかぜ薬(感冒薬)ですら、有効性が不確かなものが多いです。
今回は、小児で処方されるかぜ薬について、ざっとレビューしていこうと思います。
こどものかぜについて
かぜ薬(感冒薬)の解説をする前に、ざっくりと小児のかぜについて理解しておいたほうがいいと思い、簡単に説明していきます。
小児のかぜの自然経過について、こちらで詳しく記載しています;
大まかに説明をすると;
- かぜの原因の8〜9割はウイルス感染
- 安静と適切な水分・栄養摂取で自然治癒が期待できる
という点にあります。
以前もこちらの記事に記載しましたが、日本の医療はアクセスが良すぎて「かぜは自然に治る」という感覚が育ちにくい環境です。
かぜといえば「咳、鼻水、痰」ですから、よく処方される薬として;
- 抗ヒスタミン薬(鼻水止め)
- 去痰薬(痰切り)
- 鎮咳薬(咳止め)
があります。
今回はこれらのエビデンスについてみていこうと思います。
1. 抗ヒスタミン薬の有効性について
抗ヒスタミン薬は、その名の通り、ヒスタミンという物質をブロックすることで、有効性を発揮します。
例えば、花粉症では、体が花粉に対して過敏に反応し、ヒスタミンという物質が血液中に放出されます。
その結果、鼻水が出たり、目・鼻が痒くなったりします。
かぜでも、ヒスタミンをブロックしてしまえば鼻水が止まるのでは? 、という考えのもと、鼻水止めとして使用されています。
抗ヒスタミン薬には世代がある
抗ヒスタミン薬には第一世代、第二世代と世代があります。
第一世代の抗ヒスタミン薬はポララミン、ペリアクチン、アタラックスなどがあります。
第二世代は、アレグラ、ジルテック、アレジオンなどがあります。
世代による違いの特徴として、
- 第一世代は効果が強いが、副作用も強い
- 第二世代は効果がやや弱いが、副作用も少ない
傾向にあります。(効果と副作用のトレードオフですね)
小児では、安全性の観点から、近年は第二世代の抗ヒスタミン薬の使用が中心となっています。
(成人ですが)抗ヒスタミン薬の有効性について
成人が中心のものになってしまいますが、抗ヒスタミンはかぜの症状(主に鼻水・鼻づまり)に対して
- 1〜2日目:症状を緩和する効果あり
- 3〜4日目:有効性なし
- 5日以上:有効性なし
となっています。
特に第二世代に限っていうと、鼻づまりの症状に対して
- 3〜5日目:軽度悪化した
という結果もあります。
この結果から、抗ヒスタミン薬は;
- 有効性はかなり限定的(よくて治療開始1〜2日のみ)
- 中〜長期的には無効
- 鼻づまりを悪化させる可能性がある
といえます。
質の高い研究が少なく、小児における有効性ははっきりしていません。
通常、かぜであれば鼻水は1〜2週間に軽快することが多いです。
最初の1−2日のわずかな症状改善のため、(眠気、けいれんの誘発、不整脈など)様々な副作用を伴う抗ヒスタミン薬をする価値があるのか、疑問を感じている小児科医は多いです。
2. 去痰薬(痰切り)の有効性について
こちらの研究では、よく処方される;
- カルボシステイン(ムコダイン®️)
- アセチルシステイン
の有効性をメタ解析で検証しています。
去痰薬(痰切り)の有効性について
(小児にはよくあることですが)質の高い研究の数が少なく、メタ解析の結果は不十分なことを前提に、以下、議論をしていきます。
去痰薬の効果は;
- 治療7日目で咳が10%程度減った
- 治療7日目の発熱は予防効果なし
となっています。
解釈は慎重にしたほうがよいですが、去痰薬は咳を少し改善させるかもしれません。
しかし、発熱の持続には効果はありません。
以前、「ムコダインは発熱を誘発するから小児にNG」という小児科医に出会いましたが、どうやらこの研究結果をみると平均的には発熱を誘発するわけではなさそうです。
3. 鎮咳薬(咳止め)の有効性について
小児でよく処方される咳止めは;
- デキストロメトルファン(メジコン®︎)
- チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン®︎)
です。(*コデインは副作用が強いので、使用するのは論外)
デキストロメトルファン(メジコン®︎)について
一般的に、デキストロメトルファン(メジコン®︎)の有効性はメタ解析でも認められていますが、副作用が懸念事項として副作用があげられています。
小児科医は慎重に処方する必要のある薬と言えるでしょう。
チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン®︎)について
日本では、より副作用の少ないチペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン®︎)が使用されるケースが多いですが、残念ながらヒトに対するデータがほとんどありません。
このため、
- 『ヒトに対するデータがないから使用すべきでない』
- 『メジコンより弱いから、いいんじゃないの?歴史的に長く使用されているし、大きな副作用もずっと報告されていないし』
と評価は両極端に分かれています。
Experience Based Medicineを推奨しているわけではありませんが、後者の考えで処方している小児科医が多い印象ですね。
どちらがよいかは、それぞれの価値観による違いと思います。
おまけ:蜂蜜について
近年、蜂蜜の有効性が多数報告されております。
1歳未満の乳児はボツリヌス症の危険性があるため、使用しないでください。
咳止めとハチミツの有効性について
いずれの研究も、治療後は短期的に(1日程度)しかフォローされていないので、長期的な有効性はわかりません。例えば;
- ハチミツと咳止めは治療1日目に、咳の頻度が減った
- ハチミツと咳止めは治療1日目に、睡眠の質が良かった
といった報告があります。
まとめ
今回はメタ解析の結果を簡単にレビューしてきました。
まとめると
- 抗ヒスタミン薬(鼻水止め)の有益性はほぼなし
- 去痰薬(痰切り)は咳を多少短くするかも
- 咳止めとハチミツは咳と睡眠の質を改善させるかも
(ただし、メジコン®︎は副作用が多い)
といえます。
次回は、気管支拡張薬・解熱薬・整腸剤・抗菌薬などについて解説していこうと思います。
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