前回、こちらの記事で『Choosing wisely(賢い選択)』の概念について、簡単に説明させていただきました。
この1つに抗菌薬の適正使用があります。
抗菌薬の適正使用は普遍的な問題で、特に日本は海外より深刻な状況にあります。
喉の痛み、咳、鼻水といった風邪症状に対して、抗菌薬を使用したいと考える保護者の方々や小児科医がいるかもしれません。
しかし、ほとんどのケースで小児の風邪に抗菌薬は必要ありませんし、有害ですらあります。
今回はこの理由について説明していきます。
抗菌薬は細菌には有効だが、ウイルスには無効
抗菌薬についてですが;
- 細菌に対しては有効
- ウイルスに対しては無効
というシンプルな原則があります。
小児の感染症、例えば
- かぜ
- 気管支炎
はほとんどのケースでウイルス性であるため、抗菌薬を必要とはしません。
副鼻腔炎や中耳炎でも必ずしも抗菌薬はいらない
副鼻腔炎でや中耳炎すらウイルス感染症で起こるケースが多く、抗菌薬がなくても1週間ほどで自然に治ることもあります。
時々「鼻水の色が青いので、細菌感染しているかもしれず、抗菌薬を使いましょう」という小児科医もいますが、そもそも鼻水の色で細菌感染か否かの判断はできません。
溶連菌について
喉のかぜも、ほとんどのケースがウイルス性ですが、溶連菌は抗菌薬が有効です。
溶連菌は、咽頭痛と発熱があるけれど、咳や鼻水が出づらいことで有名です。
溶連菌を疑った場合、迅速検査を行うことも可能です。
抗菌薬を使用するリスクも知りましょう
抗菌薬にも副作用があり、
- 下痢や嘔吐
- アレルギー症状(薬疹など)
薬を飲んだ後に皮膚にブツブツができることを薬疹といいますが、決して頻度は低くなく、100人中に5人ほど出現するといわれています。
アレルギー症状は薬疹だけでなく、時にアナフィラキシーなど重篤な場合もあります。
抗菌薬は使えば使うほど耐性菌を誘導します
抗菌薬を不適正に使用したり、過剰に処方された結果として、細菌が抗菌薬に接する機会が増加します。
細菌は抗菌薬に対抗しようと変異をし、耐性を獲得してしまうことがあります。
抗菌薬に耐性ができると、ある種類の抗菌薬は効きづらくなり、細菌が広がりやすくなります。
日本でも耐性菌は確実に増えています。
例えば、日本ではマクロライド系抗菌薬が乱用された結果、マイコプラズマの9割が耐性を獲得していた時期もあります。(欧米は3割以下がほとんど)
耐性菌は日本では既に現実的な問題として直面しているのです。
抗菌薬を使用すれば医療費も余分にかかります
特に日本の小児医療は無料化が進んだため、「薬にも医療費がかかる」ことに対し実感が沸かないかもしれません。
しかし、実際、処方された抗菌薬は医療費がかかり、これらは保険でカバーされています。
また、耐性菌が出現した場合、別の高価な種類の抗菌薬が必要になったり、入院症例が増えたりと、二次的に医療費がかかる場合もあります。
どんな時に抗菌薬が必要になりますか?
小児の風邪で抗菌薬が必要になるケースは多くはありませんが;
- 咳が2週間以上
- 肺炎を起こした
- 百日咳を起こした
- 副鼻腔炎の症状が10日以上軽快しない
- 溶連菌による咽頭炎
- 3ヶ月未満の乳児の発熱
などが当てはまります。
参考文献