「子供が急に吐いてしまって」と、小児科ではこどもの嘔吐で受診されるケースが多々あります。
嘔吐はこどもにとっても保護者にとっても心理的な負担が大きい症状で、できれば小児科に受診してアドバイスを貰いたくなるでしょう。
嘔吐の原因は、ほどんどのケースは胃腸炎で、基本的に心配はいらないことが多いです。その反面、数多くのこどもの嘔吐をみていると、胃腸炎以外が原因で嘔吐をしていることがあります。
今回は、小児科医がどのような点に気をつけながら嘔吐を診ているかも含めて、簡単に説明していこうと思います。
本記事の内容
- 小児科医が嘔吐で注意していること
- 受診したほうがよい目安
- ご自宅で様子をみていてもよい目安
を中心に解説していきます。
「吐いている=胃腸炎」とは限らない
嘔吐の原因の大半は胃腸炎です。
ですが、吐いているからといって、必ずしも胃腸炎とはかぎりません。
こどもの嘔吐は、ベテランの小児科医ですら原因を特定するのが難しい症状の1つで、時に重症な病気が原因のこともあります。
重症な疾患か否かの判断が重要
このため、小児科では様々な疾患を頭に思い浮かべて診察に当たっています。
具体的には、
- 外傷や誤飲
- 尿路感染症
- 腸重積や急性虫垂炎
- 精巣捻転
- 心筋炎
- 基礎疾患(糖尿病性ケトアシドーシスなど)
あたりを意識しながら患者さんから情報を集めています。
問診と診察で、重症かそうでないかは、ある程度判断することができます。
ご家庭で注意すべきサインの説明
保護者の方々からすると、医師からの言い訳のように聞こえてしまうかもしれませんが、批判をおそれずに言うと、嘔吐だけで受診された場合、嘔吐の原因を当日に断言できるケースは少ないです。
経過をみないと嘔吐の原因はわからないことが圧倒的に多いのです。
このため、ご家庭でどのような点に注意したらよいかを説明するようにしています。
具体的には
- ぐったりしていないか
- 変わった症状はないか
- 「何かおかしい」と思うことがあるか
の3点です。
小児科的に「ぐったりしている」とは?
お子さんが「ぐったりしている」か否かは重要な指標です。
その反面、「ぐったり」は曖昧な言葉ですので、医療者と保護者の間で理解が異なることがあります。
小児科的に「ぐったりしている」と考えるのは、
- 保護者や医療者への反応が乏しい
- 表情が少ない
- 目が開いてもぼーっとしている
- 手足の動きが少ない
あたりが該当すると思います。
逆にいうと、視線がしっかり定まり、周囲の人やおもちゃを目で追えて、呼びかけるといつもとほぼ変わらない反応があれば、(医師からの基準でいえば)ぐったりしている状態ではないと言えます。
気をつけるべき症状
嘔吐と一緒に別の症状が出ることがあります。例えば、
- お腹を激しく痛がる
- 顔色が悪い、意識がおかしい
- 眠ってばかりいる
- 吐物の色が緑(胆汁性嘔吐)
- 吐物に血が混ざっていた
- 血便が出た
などもお早めに再度受診されたほうがよいと考えています。
保護者の不安や直感も大事なサインです
- 『なにか変』
- 『いつもと違って様子がおかしい』
と感じるようでしたら、再度小児科を受診されてよいと思います。
私自身は統計や疫学といった健康のデータを扱う仕事もしていますが、過去の研究で「保護者の直感」や「小児科医の直感」がこどもの重症化を予測していたという結果が数多くでています。
保護者の方が「様子がおかしい(ので、自宅で診ているのが不安)」と感じるようでしたら、一度受診されてください。
ご家庭でしばらく様子をみれる状態について
ここまでは受診したほうがよい状態や症状を説明してきました。
ここからは、反対に、ご家庭で様子をみていてもよい状態を少し説明していこうと思います。
反射性の嘔吐のケース
反射性の嘔吐の例として、
- お腹いっぱいになるまで飲食した直後に吐いた
- 食後、すぐに遊びだして吐いてしまった
などが挙げられます。
食べ過ぎで胃袋が満タンの状態で、さらにお腹に力が入った場合、嘔吐してしまうケースです。
嘔吐を繰り返すようでなければ、しばらく安静にして様子をみていて良いでしょう。
嘔吐した後も普段とかわりがない
- 短時間で嘔吐を何度も繰り返さない
- 顔色が悪くない
- 熱がない
など、1〜2回吐いた以外は普段と変わりがなく、吐いた後も基本的に元気で機嫌が良く、遊ぶ元気があるおような場合は、急いで受診する必要はないことが多いでしょう。
ご自宅で少し様子をみてから受診を考えてもよいと思います。
まとめ
今回は
- 小児科医が嘔吐で注意していること
- 受診したほうがよい目安
- ご自宅で様子をみていてもよい目安
を中心に解説してきました。覚える必要は全くありませんが、お子さんは急に嘔吐しますので、少しだけイメージをしておくと良いでしょう。
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