前回はHillの基準について解説してきました。
Hillの基準を因果推論のバイブルのように勘違いしている研究者もいますが、基本的にこの基準を使用しても、計測された研究結果に因果関係を見出すのは困難です。
臨床研究や疫学研究の9割以上は観察研究ですが、その質は本当に様々です。
とある有名ジャーナルで統計学的な有意差が出ていたとしても、その評価はのちに覆される可能性も十分にあります。
論文を読む際に気をつけることは、P値を見ることではなく、個々の研究のクオリティーを評価する必要があります。
つまり、研究がどのように施行され、バイアスがどれくらい想定されるのか、そのうちどの程度が対処されているか、といった点になります。
観察研究の基本はコホート研究になりますので、まずは基本を複数回に分けて説明していこうと思います。
本記事の内容
- コホート研究とは?
- 代表的なコホート研究
- なぜ介入ではなく観察研究をするのか?
- コホート研究をするメリットとデメリット
今回もModern Epidemiology(3rd edition)を基に記載しています。
疫学のバイブルと称され、書かれている内容は正しいのですが、Greenland教授をはじめ、記載方法にかなりクセのある本です
(ネイティブ・スピーカーですら読んでも意味が分からないと言うこともあります。)。
直訳ではなく、私の解釈と背景知識を織り交ぜながら解説していきます(受けた教育によって考え方が異なる箇所も多々あると思います)。
完全和訳ではありませんので、その点はご容赦ください。
コホート研究とは?
- 「コホート研究って何ですか?」
- 「コホート研究の定義ってありますか?」
と若手の先生から質問されることが多々あります。
コホート研究に関する定義は様々です。
代表的な定義としては、1970年代にMacMahonとPughが「疾患が発症する前に、観察者によってその集団の特徴を観察する研究」とされています。
(The group of persons are studied to observe characteristics manifest prior to the appearance of the disease under investigation)
□ 原因から疾患を観るのがコホート研究
コホート研究の説明でよく言われるのが「a cause looking for a disease」という言葉です。
イメージとしては、以下のようになります。
まずとある要因のある/なしでグループ分けをして、その後に結果が起こるかどうかを確認するイメージでしょう。
もう少し詳しくすると、手順としては、
- 参加者を募る
- 参加者の特徴を把握する(想定される原因を含む)
- 定めた期間、対象者を追跡する
- アウトカム(疾患など)を評価する
■ 研究の対象者について
言われてみれば当然のことですが、参加者を募る際には
- アウトカムはまだ発症していないが
- アウトカム発症のリスクのある
人を集める必要があります。
例えば、環境汚染が喘息の発症にどの程度影響するかを観たい場合、まだ喘息の発症していない人を集める必要があります。
喘息は様々な要因で起こしますので、「発症リスクはほぼ全員にある」と考えれば、後者についてはあまり気にしなくても良いかもしれません。
一方で、「コーヒーが前立腺癌に与える影響」を調査したいと考えたとします。
この場合、対象者は
- 前立腺癌を発症していない
- 前立腺癌を起こすリスクがある
人を集めます。
つまり、すでに前立腺癌を発症した人は研究に組み込めないですし、前立腺のない方(女性)も研究の対象にはなり得ません。
■ コホート研究を図式化すると
実際の研究をフローチャートにすると、以下のイメージになります。
とある要因(暴露)がアウトカムに影響を与える場合、少なくとも2つのグループが必要になります。つまり、暴露している人と暴露していない人が必要になります。
2グループ以上なければ、比較ができないからです。
先ほどの「コーヒーと前立腺癌」の例でいうと、
- コーヒーを日常的に飲んでいる人(The exposed group: 暴露群)
- 全く飲んでいない人(The unexposed group: 非暴露(コントロール)群)
の2つの集団が必要になります。
*注意:説明を簡便にするために2つのグループ(暴露:あり/なし)、2つのアウトカム(あり/なし)にしましたが、実際の研究ではグループ分けによる弊害もかなりありますので、あくまでも簡便な例として捉えてください。
このグループ化による弊害については、後日説明します。
代表的なコホート研究
代表的なコホート研究は知っておいても損はないと思います。
というのも、こういった代表的なコホートには、世界を代表するような疫学者がおり、研究デザインもかなり洗練されています。
例えば、
- Framingham Heart Study(アメリカ)
- Nurses’ Health Study(アメリカ)
- EPIC Study(欧州)
- Danish Birth Cohort(デンマーク)
あたりは有名かつ王道のコホートです。
他にも、感染症分野ではMACS HIV cohort(1984-2005)というコホートもあります。
疫学者であればこの規模の研究に関わりたいと羨望する方が多いでしょう。
介入研究ではなく、コホート研究をする理由
時々、「なぜ介入研究(ランダム化比較試験:RCT)でなく、観察研究をするのですか?」と素朴な質問を受けることがあります。
もちろんRCTが行えればそれに越したことはありませんが、RCTは出来ないケースも多々あります。
例えば、
- 有害性のある物質(例:妊婦にタバコ)を割りつけるのは倫理的に困難
- 疾患(アウトカム)が稀である(パーキンソン病など)
- 発症までに長期間を要する(癌など)
- 量を明確に定義できない(例:花粉、環境汚染の量)
などが該当するでしょう。
私個人の意見としては、介入研究と観察研究を明確に区別するのでなく、介入研究もコホートの一種と捉えています。
異なるのは、治療・暴露をランダムに割り付けるか否かのみで、その後に行うことはコホート研究とほぼ変わらないからです。
コホート研究の利点と欠点
コホート研究の利点と欠点も把握しておくと良いでしょう。
□ コホート研究の利点
コホート研究は他の観察研究(症例対照研究や横断研究)と比較して、時系列(Temporality)が明確なことが多いです。
つまり、どの要因に暴露して、どのような結果が出るのか、そのプロセスを観ることができます。
また、1つの因子への暴露に対して、アウトカムを複数個観ることができます。
例えば、コーヒー摂取に対して、心疾患・肝疾患・認知機能・発がん、など様々なアウトカムを設定できます。
(逆に、症例対照研究ではアウトカムのあり/なしで、症例とコントロールに分けるので、計測する暴露因子が複数になります)
また、統計学的に有利な点もあり、cumulative incidence (= risk)やincidence rate(= rate)を計測できます。
(一方、症例対照研究ではoddsしか計測できません)
□ コホート研究の欠点
コホート研究の欠点として、
- 稀なアウトカムを設定しづらい(参加者を増やさなければならない)
- 症例対照研究など他の観察研究より費用がかさむ
- 長期間の追跡が必要となる(ドロップアウトのリスクがある)
- 暴露因子(例えばコーヒーの摂取量)が変化することがあり、複数回に分けて評価し直す必要がある(統計学的な対処がより複雑になる)
- 研究の参加者は、一般集団と異なるかもしれない
などが挙げられます。
まとめ
今回はコホート研究の基本事項について解説してきました。
次回は、それぞれの事項をもう少し深く説明していきたいと考えています。
● Modern Epidemiology(3rd edition):Chapter 7: Cohort study
- 作者: Kenneth J. Rothman,Timothy L. Lash Associate Professor,Sander Greenland
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