学会や公的な団体の推奨にもよりますが、多くは2〜5歳未満の小児に関してはマスクの着用を推奨していないのが現状です。
一方で、これらの見解はエキスパートオピニオンが色濃く、実際にサージカルマスクは小児における酸素欠乏や呼吸窮迫のエピソードと関連しているかを検討した研究は限られています。
今回は、乳幼児のフェイスマスクをテーマにした研究をご紹介しようと思います。
- イタリアの小児において、マスクの着用が呼吸や心拍数に与える影響を検証
- 室内、30分未満という限られた状況であれば、2歳未満の小児でも特に大きな影響はなかったよう
- 研究結果のみでは検証は不十分
2021年3月に公表されたようです。
新型コロナ流行下でのマスク着用は?[イタリア編]
研究の背景/目的
フェイスマスクは飛沫を介したウイルスの拡散を効果的に防止することと関連している。
しかし、小児、特に3歳未満の小児におけるフェイスマスクの使用については議論が分かれている。
例えば、米国疾病管理センターおよび米国医師アカデミーは、3歳以上の小児にのみフェイスマスクを使用することを推奨している。
小児におけるサージカルマスクの使用が、酸素欠乏または呼吸窮迫のエピソードと関連しているかどうかを検討する。
研究の方法
2020年5月から6月にかけて、イタリアの病院小児科で実施された。
参加者は健康な47人の小児で、年齢別にグループ分けをした:24ヵ月未満のA群、24ヵ月以上~144ヵ月未満のB群
データは、2020年5月〜6月にかけて分析された。
すべての参加者が、サージカルマスクを装着していない状態で最初の30分間、マスクを装着している状態で次の30分間、呼吸パラメータの変化を15分ごとにモニターされた。
その後、生後24ヵ月以上の小児は12分間の歩行テストに参加した。
研究の結果
参加した小児の分布は以下の通りでした:
A | B | |
月齢 | < 24ヶ月 | > 24ヶ月 |
N | 22 | 25 |
年齢, 中央値 | 12.5ヶ月 (10.0~17.5) |
100.0ヶ月 (72.0~120.0) |
男児 | 11 | 13 |
呼吸のアウトカム
最初の60分の呼吸のアウトカムは以下の通りでした:
A | B | |
Petco2, mmHg |
33.0 [32.0-34.0] |
36.0 [34.0-38.0] |
SaO2 | 98.0% [97.0-99.0] |
98.0% [97.0-98.0] |
HR | 130.0 [115.0-140.0] |
96.0 [84.0-104.5] |
RR | 30.0 [28.0-33.0] |
22.0 [20.0-25.0] |
B群の歩行試験前後比較は以下の通りであった:
前 | 後 | |
HR | 96.0 [84.0-104.5] |
105.0 [100.0-115.0] |
RR | 22.0 [20.0-25.0] |
26.0 [24.0-29.0] |
結論
イタリアの乳幼児を対象としたこのコホート研究では、顔面マスクの使用は、生後24ヶ月以下の子供を含め、Sao2またはPetco2の有意な変化とは関連していないことが明らかになった。
考察と感想
少しだけ背景について追加で説明しましょう。
米国疾病対策予防センター(CDC)と米国小児科学会(AAP)は、3 歳未満の子供にはフェイスマスクの使用を推奨していません。
3歳未満の子どもたちは、運動能力や協調性が低いため、マスクを外すのが困難になることがあり、フェイスマスクの使用に伴い問題が生ずる可能性があるからです。
今回の研究は、マスクに伴う問題(苦しいことによる呼吸数や心拍数の上昇)が生じるかをみた研究です。安全性を確認したというところでしょうか。
(論文より拝借)
マスク着用前後(前、0〜30min;後、30〜60min)で、酸素飽和度、呼気終末のCO2、心拍数、呼吸数など、ほとんど変わっていないのが分かります。
室内で遊ぶくらいのレベルでしたら、30分以内ならほとんどマスク着用の影響がなかったといったところでしょうか。
歩行時に関しては、そもそもマスク着用の有無で比較していないので、マスク着用の効果をみていないです。心拍数など上昇していますが、体を動かせば上がるのは当然で、これはマスクの効果とは言えないです。
この論文の著者らも最後の方に述べていますが、上手に外せるかどうかも疑問点があり、この結果のみでマスクを一律に推奨できるものではありません。
30分以上つけても大丈夫か、体を動かした状況では、どうかの評価は不十分です。また、サンプル数も非常に少なく、追加での検証が必要なのも明らかです。
まとめ
この研究では、イタリアの小児において、マスクの着用が呼吸や心拍数に与える影響を検証しています。
室内、30分未満という限られた状況であれば、2歳未満の小児でも特に大きな影響はなかったようです。
しかし、この研究結果のみでは検証は不十分です。
伊藤健太先生のツイートにインスパイアされて記事を書きました。
伊藤健太先生の書籍をご紹介↓↓
新型コロナ関連の書籍↓↓
(2024/12/21 10:56:55時点 Amazon調べ-詳細)
(2024/12/21 08:52:51時点 Amazon調べ-詳細)
(2024/12/21 11:16:20時点 Amazon調べ-詳細)
感染対策の書籍↓↓
(2024/12/21 08:52:51時点 Amazon調べ-詳細)
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/21 02:10:50時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
noteもやっています
当ブログの注意点について