科学的根拠

抗ヒスタミン薬を内服と熱性けいれんの持続時間について【追加報告】

乳幼児に抗ヒスタミン薬を使用すると、

  •  熱性けいれんを誘発するかもしれない
  •  けいれんの持続時間を延長するかも

といった報告が少なからずあります。

抗ヒスタミン薬は熱性けいれんの持続時間を長くするかもしれない熱性けいれんは小児で最もよく起こるけいれんでして、5歳以下の小児で起こりやすいです。 明確な理由は不明ですが、日本人で罹患率が高く、小...

確かに原著論文を読み解くと、けいれんの持続時間が長くてているように見えるのですが、実際に抗ヒスタミン薬が持続時間を本当に延長させているのか否かは、かなり微妙と私は思っています。

観察研究ですので、どれだけしっかり患者背景のデータを集められたのか、どれだけバイアスを対処できたのか、そういった点も重要になってきます。
例えば、抗ヒスタミン薬を飲んでいる人と、そうでない人の年齢が微妙に異なれば、ひょっとしたら交絡になり得ますし、けいれんの持続時間を正確に推定するのもややこんなんです(計測エラーの対処)。
また、どんな患者を対象に研究するかでも、場合によっては選択バイアスを招くことすらあります。

最近、また追加でいくつか論文が出てきたので、簡単に解説してみましょう。

研究の方法

日本国内のとある施設で、後ろ向き観察研究がされました。

  •  2011年〜2016年
  •  6ヶ月〜5歳
  •  熱が38℃以上
  •  救急搬送された

などを対象にしています。

暴露(exposure)について

暴露因子(exposure)については、

  •  抗ヒスタミン薬の内服の有無

を調査して、内服あり vs. なしの2グループに分けています。
抗ヒスタミン薬は24時間ほど効果が持続することがあるので、「24時間以内の内服」と限定しています。

アウトカムについて

アウトカムは、

  •  熱性けいれんの持続時間:主に15分以上
  •  発熱してからけいれんを起こすまでの時間

などを見ています。

Dr.KID
Dr.KID
色々なアウトカム(けいれんの局在性など)を見ていますが、今回はけいれんと時間をメインに解説していきます。悪しからず。

研究結果と考察

最終的に380人が解析の対象となりました。内訳ですが、70人が抗ヒスタミン薬とを内服しており、310人は内服していなかったようです。

患者背景ですが、

  •  年齢は2歳くらい
  •  男女比は50%ほど
  •  熱性けいれんの既往は40%ほどであり
  •  家族歴は 20%ほどであり
  •  発熱の原因は60-70%が上気道炎

などといった特徴がありました。
多少のばらつきは散見されましたが、抗ヒスタミン薬を内服した人と、そうでない人で大きな違いはなさそうでした。

けいれんの持続時間について

けいれんの持続時間を見てみましょう

抗ヒスタミン薬 あり なし PR
中央値 3.0
(2.0〜5.0)
3.0
(1.0〜5.0)
N/A
< 5分 41
(59%)
210
(68%)
0.67
(0.40, 1.15)
5〜14分 21
(30%)
75
(24%)
1.34
(0.76, 2.38)
> 15分 8
(11%)
25
(8.1%)
1.47
(0.63, 3.42)

まず中央値を比較すると、抗ヒスタミン薬を内服していても、していなくても、けいれんの持続時間は変わりませんでした。

次に、< 5分 vs. 5-14分 vs. > 15分に分類してPrevalence ratio(PR)を比較していますが、抗ヒスタミン薬を内服しているグループの方が、5分以上のけいれんになるリスクはやや高い印象ですね。
ただし、95%信頼区間の幅は広く、かつPR = 1をまたいでおり、ばらつきが大きい結果です(疫学用語では、不正確な検定となります)。

考察と感想

こちらの研究ですが、過去のものと少し趣が異なり、抗ヒスタミン薬がはっきりとけいれんの持続時間を延長させるものではなさそうでした。特に中央値の比較ではそれが表されています。
一方で、5分以上のけいれんのリスクは、ひょっとしたらやや上昇するのかもしれませんが、信頼区間が広く、まだ追加での検証が必要な印象です。

こちらの研究ですが、抗ヒスタミン薬の内服や持続時間の決定に必要だったプロセスがしっかりと書いており、今後の研究の参考にもなるのではないかと思いました。
例えば、抗ヒスタミン薬の内服を24時間以内とした理由もしっかりと明記されています。
けいれんの持続時間についても、救急隊の連絡から到着まで、到着後の評価まで書かれており、出来るだけ計測エラーを排除するように工夫した内容が記載されています。

「けいれんの持続時間」は、多くは、

  1.  けいれんが起こる
  2.  親が認識する
  3.  救急隊を呼ぶ
  4.  救急隊が到着する
  5.  病院に搬送される
  6.  医師が診察する
  7.  けいれんの頓挫を確認する

といった長いプロセスの足し算になります。このプロセスで計測エラーは起こってしまうものですが、出来るだけエラーを少なくするのは研究する上で重要です。

まとめ

今回の研究では、抗ヒスタミン薬は、中央値の比較では熱性けいれんの持続時間をはっきりと延長させる効果はなさそうでした。
一方で、5分以上の熱性けいれんのリスクはやや上昇させる可能性がありますが、これは追加で検証が必要と思います。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。