- 日本のデータでは、インフルエンザワクチンは乳幼児に効果がなかった
- 乳幼児は抗体がつかないから、インフルエンザワクチンの意味がない
と言った趣旨のコメントを時に見ます。
成人ほどの有効性を示した研究は少ないですが、「効かない」や「意味がない」はやや言い過ぎですし、論理が飛躍しているような気がしてなりません。
日本国内でも、乳幼児において、インフルエンザワクチンの有効性を調査して、報告した研究もあります。今回は、そちらの研究を参照してみましょう。
- 国内の6-24ヶ月の乳幼児を対象に行われた研究
- インフルエンザワクチンの予防効果を検証
- 予防効果が示唆されるものの、追加検証は必要
研究の方法
今回の研究は、1999-2002年にかけて日本国内で行われたコホート研究になります。
対象となったのは、
- 6-24ヶ月の乳幼児
- 基礎疾患がない
などが該当しています。
年齢をマッチングしてコホート研究を行なっています。
ワクチンについて
ワクチンは、
- 3価のインフルエンザワクチン
- ワクチンなし
のいずれかでグループ分けされています。
この時期のインフルエンザワクチンですが、
- <12ヶ月:0.1 ml x 2回(14日以上空けて)
- > 12-24ヶ月: 0.2 ml x 2回 (14日以上空けて)
となっています。
アウトカムについて
アウトカムに関しては、
- インフルエンザA感染症の頻度
を見ています。検査は迅速検査を利用しています。
研究結果と考察
最終的に3シーズンで、約300名ほどが研究に参加をしています。参加した乳幼児は、
- 平均月齢:15ヶ月
でした。
ワクチンの有効性について
まずは全体のワクチンの有効性を検証してみましょう。
リスク | リスク比 | VE | |
ワクチン | 8/157 (5.1%) |
0.57 (.25 to 1.32) |
42.9% (-32.4% to 75.3%) |
コントロール | 14/157 (8.9%) |
Ref |
やや不安定な結果ではありますが、ワクチン接種グループの方が、全体としてはインフルエンザ発症のリスクが下がっています。
シーズン別の成績
シーズン別の成績も見てみましょう。
99-00 | リスク | リスク比 | VE |
ワクチン | 4/27 (14.8%) |
1.19 (.33 to 4.30) |
-19% (-330% to 77%) |
コントロール | 4/32 (12.5%) |
Ref | |
00-01 | |||
ワクチン | 2/72 (2.8%) |
0.38 (.08 to 1.91) |
61.7% (-91.1% to 92.3%) |
コントロール | 5/69 (7.2%) |
Ref | |
01-02 | |||
ワクチン | 2/52 (3.8%) |
0.43 (0.09 to 2.12) |
56.9% (-112% to 91.2%) |
コントロール | 5/56 (8.9%) |
Ref |
1999-2000のシーズンは有効性は確認できませんでしたが、2000/01と2001/02のシーズンでは有効性が示唆される結果です。問題なのは、検定力不足で、95%信頼区間が非常に広く、この有効性の推定は不正確で追加検証が必要です。
感想と考察
シーズンによって有効性のばらつきはありますが、全体としてインフルエンザワクチンの有効性が示唆される内容でした。一方で、サンプルサイズは少ないため、この有効性の推定はかなり不安定で、追加検証が必要な状態です。
また、現代のワクチンより投与量が半量以下ですので、より有効性は検証しづらい状況だった点も推察されます。
この論文の著者らは「influenza vaccine did not reduce the attack rate of influenza A virus infection」と述べていますが、点推定を見る限り、リスクは減らしているため、この記載はミスリーディングな気がします。
問題なのは、95%信頼区間が広く、この推定が不安定な点です。統計学的な有意差がないからと言って「リスクを下げない=有効性なし」と二分化しないようにしましょう。
まとめ
1999-2002年のシーズンに、日本国内の6-24ヶ月の乳幼児において、インフルエンザワクチンの有効性を検討しています。インフルエンザAを予防する可能性は示唆されていますが、サンプル数が少なく、推定値がかなり不安定なため、追加検証が必要でしょう。
99-02年のシーズンで、乳幼児へのインフルエンザワクチンは…
- 有効性にばらつきはある
- 全体としては予防効果が示唆される
- 追加検証は必要
- ワクチンの投与量は現在より少ない
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