100%果汁(フルーツジュース)をいつ乳幼児に与えるかですが、アメリカ小児科学会(AAP)とRobert Wood Johnson Foundation Healthy Eating Research Programは、以下のような方針を出しています:
学術団体 | 方針 |
AAP | 1歳未満:与えるべきでない 1−3歳:1日あたり120 mlまで 4ー6歳:1日あたり180 mlまで 7-18歳:1日あたり240 mlまで |
Robert Wood Johnson Foundation | 2歳未満:与えるべきでない 2−4歳:1日あたり120 mlまで 5ー10歳:1日あたり180 mlまで 11-18歳:1日あたり240 mlまで |
(AAP: Heyman MB, Abrams SA, AAP Section on Gastroenterology, Hepatology, and Nutrition, AAP Committee on Nutrition. Fruit juice in infants, children, and adolescents: current recommendations. Pediatrics. 2017;139(6):e20170967.)
(Robert Wood Johnson Foundation: Healthy Eating Research. Healthier beverage recommendations. March 2013.)
このような方針が出されているのも、過去に行われた観察研究から
- 1歳未満の小児に果汁を与えるメリットはほぼなく、デメリットが多い
(*注意:果肉は別です) - 1〜4歳はBMIがやや上昇するかもしれない
- 虫歯のリスクがあがるかもしれない
など、様々な報告がされています。
今回は、100%フルーツジュースと小児の虫歯の報告をみつけたため、ご紹介させていただこうと思います。
研究の方法
今回の研究は、8-19歳の小児において、食事と齲歯の関連性を報告した研究をシステマティック・レビューをし(網羅的な文献検索)、最終的にメタ解析をしています。
8歳以上を対象としたのは、永久歯における齲歯を確認したかったからのようです。
検索には、
- Pubmed
- Scopus
- Science Direct
- Web of Science
- EBSCOHost
- Scielo
などを使用しています。使用されたkeywordは以下のようです:
(Tooth Erosion[Mesh]) OR (Tooth Wear[Mesh]) AND (Child[Mesh]) OR Adolescent[Mesh]) AND (Diet[Mesh]) OR (Food Habits[Mesh] OR (carbonated beverage[Mesh]) AND Epidemiologic Studies[Mesh]) AND (Cross-Sectional Studies[Mesh]) AND (Longitudinal Studies[Mesh]) AND (Cohort Studies[Mesh]).
虫歯との関連性を調べた食品は、
- 炭酸飲料(Carbonated drinks)
- スポーツ飲料 (Sports drinks)
- ヨーグルト (Yogurt)
- ミルク(Milk)
- 天然フルーツジュース(Natural Fruit Juices)
になります。
本日は天然フルーツジュースのみを解説して、残りの飲料はまたの機会に解説させたもらおうと思います。
研究結果と考察
1579の論文・研究から、最終的に16の研究が対象に選ばれています。それぞれの研究結果をみていきましょう。
ブラジル、中国、オランダ、インド、ヨルダン、リビア、スリランカ、スーダン、イギリス、アメリカで行われた研究になります。
天然フルーツジュースと虫歯について
天然フルーツジュースの摂取量が多いグループ vs 少ないグループで比較しています。該当する7つの研究のメタ解析の結果では、天然フルーツジュースの摂取量が多いグループの方が、虫歯があるオッズが1.2倍ほど高い傾向にありました(95%CI, 1.20〜1.42)。
このForest plot (上の図です)を見ていると、Kumarらの研究がかなりプラス方向に引っ張っている印象もあります。このデータをのぞいて、(私の方で)再度メタ解析をしてみました。
同様にRandom effect model + Inverse variance weightを使用してみましたが、同じような結果です。天然フルーツジュースの摂取量が多いと、虫歯のオッズが1.18倍ほど高くなっています(95%CI, 1.01〜1.37)。
研究の問題点:多い vs. 少ないとは?
メタ解析の論文には、何を持って多いのか vs 少ないのかという点が明示されていませんでした。通常、疫学研究をする場合、暴露(今回の場合はフルーツジュースの摂取量)がどのレベルかを明示する必要があります。つまり、〇〇 ml/日といった指標がないと、解釈が漠然とします。
疫学の世界では、このことをwell defined interventionなどと言われますが、まさにこの点がill definedなのです。
例えば、Forest plotの一番上にある研究では、
- 1日に何グラス/缶ほどフルーツジュースを飲みますか?
という質問をしています。こちらの結果によると、フルーツジュースを3杯以上飲むグループは、そうでないグループと比較して、虫歯のオッズが1.83倍高いとなっています。
Drugmore CR, et al. A multifactorial analysis of factors associated with dental erosion. British Dental Journal; 2004;196:283-286.
Aidiらの論文では、fruit lemonadeを対象にしており、なぜかupper incisors(上顎切歯)のみを対象にして、おそらく週に3.58杯飲む毎に、虫歯のオッズがどのくらい上がるのか(1.00倍)をみています。
El Aidi, et al. Factors associated with the incidence of erosive wear in upper incisors and lower first molars: a multifactorial approach. Journal of Dentistry 2011;39:558-563.
Gurgelらの論文では、フルーツジュースを対象に、多いグループ(毎日1度は飲む)vs. 少ないグループ(週に1度以下)と分けています。
Gurgek CV, et al. Risk factors for dental erosion in a group of 12- and 16-year-old Brazilian schoolchildren. International Journal of Pediatric Dentistry. 2011;21:50-57.
Miscevicらの研究では、0) 決して飲まない、1) 1週間に1回未満、2) 週に1回、3) 1日1回以上の4つのカテゴリーに分けて、1日1回以上か、そうでないかに2分しています。
Milosevic A, et al. Epidemiological Studies of toothe wear and dental erosion in 14-year old children in North West England. Part 2: The association of diet and habits. British Dental Journal 2004; 197: 479-483..
Okunseriらの研究は、1日1杯飲むにつれて、どのくらい虫歯のオッズが上昇するのかをみています。
Okunseri C, et al. Erosive Tooth WEar and Consumption of Beverages among Children in the US. Caries Res. 2011;45:130-135.
Sanhouriの研究に関しては(実は著者らの索引が間違っている)、グレープフルーツジュースをおそらく対象にしており(同じORが見つけられなかった)、おそらく1日1杯以上 or 未満で2分したものと思います。
Sanhouri NM, et al. Tooth surface loss, prevalence and associated risk factors among 12-14 years school children in Khartoum State, Sudan. Community Dent Health. 2010;27:206-212.
長くなりましたっが、この傾向としては、飲む頻度が多いほど虫歯ができそうな印象ですが、おそらく基準となるのは1日1杯以上を毎日続けると、虫歯になりやすくなりそうな印象ですね。
感想
フルーツジュースと虫歯という、一見すると単純そうな関連性も、実際に研究するとかなり複雑です。
例えば、先ほどのように述べたように、どこをカットオフにするのか、それぞれの研究で異なる場合もあります。
また、虫歯に関していうと、歯科へのアクセスや予防にどれだけ国や地域として力を入れているのか(水道水へのフッ素、歯科受診でフッ素を塗ってもらう)など、様々な要素の影響も受けます。
全体としては、1日1杯以上(約200-250ml以上)だと虫歯のリスクが上昇しやすそうな印象を受けるので、AAPなどの出している提言は、この辺りを考慮しているのだと思います。
まとめ
色々と問題のありそうなメタ解析でしたが、1日1杯以上(約200-250ml以上)のフルーツジュースを飲むと、虫歯になりやすそうな印象を受けました。
研究の質としては、改善点が多く、解釈もやや漠然としたものになります。
虫歯予防にはフッ素入りの歯磨き粉の使用をオススメしています: