アメリカ小児科学会(AAP)をはじめ、複数の学術団体は1歳未満の乳児にフルーツジュース(果汁)を与えることに反対をしています(*注:果肉はOKです)。また、1〜2歳以上でも、1日量を制限するように推奨しています(目安としては、体重 1kgあたり10mlほど:10kgなら100ml/日まで)。
その理由についてですが、フルーツジュース(果汁)には、
- 成長に必要なタンパク質やミネラルの量が少ない
といったデメリットがあるためです。もちろん、フルーツジュースにはカリウムやビタミンA、ビタミンCが多く含まれているものがあり、全くメリットがないわけではないのですが、総合的にみてデメリットが大きいと考え、「1歳未満に果汁はNG」と判断されています。
今回はこの根拠となる研究&文献のご紹介をできればと思います⇩
フルーツジュースだけでなく、ミルクや母乳以外からの糖分(NMES = non-milk estrinsic sugars)と小児の成長や栄養状態を評価しています。
研究の方法
今回の研究は、National Diet and Nutrition Surveyのデータを使用して、1.5〜4.5歳の小児を対象にイギリスで研究が行われました。
サンプルしたデータがイギリス全体を反映するように、重み付けをした上で解析をしています。
全体のエネルギー摂取量のうち、乳以外からの糖(NMES)の割合を計算し、5分位をカットオフとしています。
その上で、エネルギー摂取量やミネラル・ビタミンの摂取量を比較しています。
研究結果と考察
最終的に848人の男児と827人の女児のデータを解析しています。それぞれの結果は、男女別に報告しています。
NMESの割合(%)のカットオフは男女別に以下の通りです:
カットオフ | 20 | 40 | 60 | 80 |
男児 | 12.2 | 15.8 | 19.9 | 24.9 |
女児 | 11.9 | 16.4 | 20.2 | 24.5 |
結果を簡単に要約すると、鉄・亜鉛の摂取量は、NMESの割合が高くなると、適正量以下になっていました。
鉄分について
まずは鉄分の結果をみていきましょう。
NMES | 男児 | 女児 |
Q1 | 5.7 (0.2) |
5.4 (0.2) |
Q2 | 6.1 (0.2) |
5.6 (0.2) |
Q3 | 5.7 (0.2) |
5.6 (0.2) |
Q4 | 5.8 (0.2) |
5.3 (0.2) |
Q5 | 5.1 (0.2) |
5.1 (0.2) |
鉄分摂取量自体がわりとギリギリのラインで推移していますが、NMESの割合が多くなると、鉄分不足になる傾向があります。
亜鉛について
次に、亜鉛の結果をみていきましょう。
NMES | 男児 | 女児 |
Q1 | 5.2 (0.1) |
5.0 (0.1) |
Q2 | 4.7 (0.1) |
4.6 (0.1) |
Q3 | 4.5 (0.1) |
4.3 (0.1) |
Q4 | 4.4 (0.1) |
4.0 (0.1) |
Q5 | 3.7 (0.1) |
3.7 (0.1) |
亜鉛も似たようなような傾向でして、NMESの割合が増えると摂取量が少なくなっています。
脂肪摂取について
脂肪摂取が総エネルギーに占める割合(% energy:脂肪エネルギー比率)については以下の通りでした:
NMES | 男児 | 女児 |
Q1 | 39.6 (0.4) |
40.1 (0.4) |
Q2 | 37.4 (0.3) |
37.1 (0.4) |
Q3 | 36.2 (0.3) |
36.0 (0.4) |
Q4 | 34.1 (0.3) |
35.0 (0.3) |
Q5 | 31.3 (0.3) |
32.2 (0.3) |
NMESの割合が増えると、脂肪エネルギー比率が減っているのが分かります。
脂肪・エネルギー比率は1歳未満の乳児では40-50%くらい、1〜2歳では20〜30%くらいが目標になります。
総エネルギー(energy: kJ/d)について
総エネルギー量(kJ/d)も比較しています。
NMES | 男児 | 女児 |
Q1 | 4724 (84) |
4590 (89) |
Q2 | 4890 (78) |
4615 (80) |
Q3 | 4970 (84) |
4767 (82) |
Q4 | 4974 (86) |
4668 (79) |
Q5 | 5093 (86) |
4673 (83) |
男児のほうは、NMESが高いとエネルギー量も多い傾向ですが、女児はあまり変化がなさそうですね。
感想と考察
NEMSの割合が高い、つまりミルクや母乳以外からの糖の摂取量が多いと、鉄分や亜鉛の摂取量がへり、さらに脂肪の摂取も減少する傾向に当てはまりました。
フルーツジュースの摂取量でみると、
Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | Q5 |
146ml | 202ml | 299ml | 275ml | 370ml |
と圧倒的にQ5が多いです。Q3とQ4の量をみてみると、NEMSは必ずしもフルーツジュースの摂取量を反映するわけではなさそうですが、Q1-Q5の大きなトレンドでみると反映していると言えそうです。
鉄や亜鉛は小児の成長発達で非常に重要で、特に1歳未満の乳児期は完全母乳栄養の場合、不足しやすいです。離乳食を開始して果汁をはじめてしまうと、さらに鉄不足を招いてしまうかもしれません。
鉄不足の場合、
- 熱性けいれんのリスクが上昇するかも
- 貧血になる
- 発達や将来の脳の機能に影響するかも
といった報告がいくつかあります。貧血以外は確定的なエビデンスではありませんが、長期的な影響の可能性を考えると、鉄不足を予防しておくメリットがあるでしょう。
今回の研究では対象になっていませんが、NMESが増えることで、1歳未満においても相対的に脂肪エネルギー比率が下がることが予測されます。1歳未満の乳児はミルクや母乳からの栄養がメインでして、これをフルーツジュースなどで置き換えてしまうと、全体としては体重増加不良となってしまう可能性も示唆されます。
まとめ
今回の研究では、フルーツジュースのように、ミルクや母乳以外からの糖分(NMES = non-milk estrinsic sugars)の多いものを摂取しすぎると、鉄不足・亜鉛不足が起こりやすい傾向にあり、さらに脂肪エネルギー比率も低下していました。
実際に小児の成長など長いトレンドでどのように影響するかは、もう少し調べた方がよさそうですね。
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