今回は遺伝疫学からみた
- メンデルの法則
- Harfey-Weinbergの法則
について簡単に解説していこうと思います。
すでにご存知かもしれませんが、「疫学の世界ではこんな感じで活用していますよ」という点の導入になればと思います。
オススメの教科書はこちらですので、遺伝疫学に興味のある方は一読をオススメします。
メンデルの法則:Mendel’s laws of inheritance
ご存知の方も多いと思いますが、メンデルの法則(Mendel’s laws of inheritance)は、1865年にGregor Mendelによって記載されました。
遺伝疫学に非常によく関連している2つの法則は、
- Equal segregation (分離の法則)
- Independent assortment(自由組み合わせ(独立)の法則)
になります。
Equal segregation
生物が配偶子を作って子孫を残すとき、配偶子は減数分裂の過程を経て作られます。
このとき、両親から2本ある染色体の片方が分離して配偶子に入ります。
この片方が分離して配偶子に入る確率が等しいことをequal segregationと言います。
Independent assortment
独立の法則ですが、それぞれの遺伝子が次の世代に遺伝するとき、独立して遺伝することを指します。
逆に、同じ染色体上にある距離の近い遺伝子の場合、独立して次世代に遺伝しない場合があります。このことを”Linkage”と遺伝疫学では読んでおり、このLinkageを対象にした解析方法も複数あります。
ABO型の例
これらの法則を、ABO型を例に解説していきましょう。
血液型といえばABO型ですが、歴史を辿ると
- 1900年にLandsteinerらが発見し
- 1990年にYamamotoらが9q34(染色体の場所)が関連している
ことが報告されています。
A variantあるいはB variantのある人は、赤血球の表面にA型・B型の抗原があります。
一方、O型の人はA型やB型の抗原が赤血球の表面にはない状態を言います。
ABO型は、A型、B型、AB型、O型の4つのphenotypeですが、遺伝型(genotype)は6つあります。
ABO型でequal segregationの説明してみましょう。
例えば、AB型の親は、genotypeではABです。このAもBも同じ確率で自分の子供に遺伝することをequal segregationといいます。
また、independent assortmentは、ABO型の遺伝子のある9番染色体と、それ以外の染色体上の遺伝子は、独立して遺伝子が次世代に遺伝します。
一方で、9q34に近い位置にある遺伝子は、ABO型の遺伝と似通った遺伝の傾向があるため、linkageがある状態と言えます。
Modes of inheritance for single genes(単一遺伝子の遺伝形式)
こちらもすでにご存知の方が多いと思いますが、遺伝形式は
- Autosomal dominant(常染色体優性遺伝)
- Autosomal recessive(常染色体劣性遺伝)
- X or Y linked(性染色体遺伝)
があります。
これ以外に、co-dominant (additive inheritance)という遺伝形式があります。
例えば、AOの場合、Aが優性なのでA型が表現型になります。BOもBが優性なので、B型が表現型になります。
しかし、ABの場合はAもBも等しく優性であるためAB型になります。このことを”co-dominant”といったりすることがあります。
Hardy-Weinbergの法則
こちらの法則も有名なためご存知の方もいると思いますが、少し統計学・疫学の要素を踏まえて説明していこうと思います。
まず、Hardy-Weinbergの法則ですが、1908年に統計学者のG.H. Hardyとドイツ人医師のW. Weinbergが別々に報告した法則です。
Hardy-Weinbergの法則では、
- 現在の世代と次世代で、なぜ遺伝子の頻度が変わらないのか?
- 優性が劣勢に置き換わらないのはなぜか?
といった点を解説していました。
Hardy-Weinberg Principleの例
単一遺伝子(Aとa)について考えてみましょう。
f(A)は、allele Aの頻度(確率)で
- f(A) = p(0 < p < 1)
同様に、f(a)は、allele aの頻度で、
- f(a) = q (0 < q < 1)
さらに、この遺伝子はA or aのパターンしかないので
- p + q = 1
となります。Hardy-Weinberg Equilibrium(HWE)では、
- f(AA) = p2
- f(Aa) = 2pq
- f(aa) = q2
となり、この均衡は次世代も保たれるという法則です。
HWEに必要な前提について
実はこの法則には前提がいくつか必要でして、
- Random mating:ランダム(任意)交配
- No genetic mutation:遺伝子変異なし
- Negligible migration:移住者は無視できる
- Large population size:母集団は十分に大きい
- No natural selection:自然選択はない
がの条件満たされる必要があります。
Test for Hardy-Weinberg Equilibrium
調べた遺伝子がHWEの分布に従っているか、統計学的に検定する方法があります。
例えば、先ほどの例でA/aという遺伝子で考えてみましょう。
この遺伝子の組み合わせの頻度が以下の通りだったとします。
- AA = 265人
- Aa = 66人
- aa = 7人
まずここからf(A) = pとf(a) = qを計算する必要があります。
まず、この集団はN = 265 + 66 + 7 = 338人のため、A/aに関わる遺伝子は338 x 2 = 676個あることになります。
このため、f(A) = p = (265*2 + 66)/676 = 0.882になります。
一方で、f(a) = q = 1 – p = 0.118となります。
もしA/aの遺伝子がHWEの分布に従っているとすると、
- f(AA) = 0.882*0.882 = 0.7779
- f(Aa) = 2*0.882*0.118 = 0.20815
- f(aa) = 0.118*0.118 = 0.013924
という割合になることが予測されます。
このため、AA、Aa、aaの予測人数は、
- E(AA) = 338*0.7779 = 262.93
- E(Aa) = 338*0.20815= 70.35
- E(aa) = 338*0.013924= 4.706312
となります。これらの結果をchi-square tableに記載すると、
|
Observed |
Expected |
(O–E)2/E |
AA |
265 |
263 |
4/263 = 0.015 |
Aa |
66 |
70.3 |
18.49/70.3 = 0.263 |
aa |
7 |
4.7 |
5.29/4.7 = 1.1255 |
となります。最後に
X2 (df = 1) = 0.015 + 0.263 + 1.1255 = 1.4035
このP値をX2分布で計算すると、P-value = 0.25となるため、統計学的な有意差はありません。
よって、このA/aの分布はHWEに矛盾しないと判断します。
HWEに矛盾する場合
もし計測した遺伝子の分布がHWEに矛盾する場合は、前提のどれかに間違いがある可能性があります。このため、
- Non-random mating
- Mutation
- Natural selection
- Migration
- Random genetic drift
あたりを原因として考えます。
まとめ
今回は、遺伝疫学で重要なメンデルの法則と、Herdy-Weinbergの法則について、遺伝疫学的な視点から解説してきました。
既知の方も多いかもしれませんが、疫学的な要素とリンクさせると、遺伝疫学の研究の手法が徐々に理解できると思います。