今回は、乗り物酔いに対して、異なるムスカリン受容体拮抗薬かどうかを検討した研究した論文をご紹介します。
- スコポラミンとザミフェナシンにおいて、乗り物酔いの症状を軽減する効果があるか、両者で有効性に差があるか検討した研究
- どちらも乗り物酔いに対し予防効果があり、ほぼ同等
Golding JF, Stott JR. Comparison of the effects of a selective muscarinic receptor antagonist and hyoscine (scopolamine) on motion sickness, skin conductance and heart rate. Br J Clin Pharmacol. 1997 Jun;43(6):633-7.
1997年にUKから公表されたようです。
乗り物酔いに対する選択的ムスカリン受容体拮抗薬とヒソスチン(スコポラミン)の効果[UK編]
研究の背景/目的
乗り物酔いの予防に有効なHyoscine(スコポラミン)は,既知の5つのムスカリン受容体サブタイプのすべてに同様の結合親和性を示す。
その効果を,ムスカリンM3およびM5受容体に選択的に結合するzamifenacin (UK-76654)と比較した。
研究の方法
18名の被験者に
- Hyoscine(スコポラミン)0.6 mg
- ザミフェナシンzamifenacin 20 mg
- プラセボ
のいずれかを投与した、二重盲検クロスオーバーデザインを実施した。
セッションは1週間間隔で行い、乗り物酔い試験の90分前に薬剤(経口)を投与した。
乗り物酔いは,ターンテーブル上での交差結合刺激によって誘発された。
回転速度は30秒ごとに増加させ、頭部を45度ずつ8回動かすシーケンス(seq)を30秒ごとに完了させた。
運動耐性は、中等度の吐き気を得るために必要な頭部の動きのシーケンス数として評価した。
心拍数は,薬物投与前と投与後1時間および2時間に記録した。
汗腺の活動の指標となる0.005~0.48Hzの皮膚コンダクタンス活動は,手指の掌面と額に装着したAg/AgCl電極を用いて測定した。
研究の結果
ザミフェナシンとHyoscine(スコポラミン)はともに運動負荷に対する耐性の向上をもたらし(P < 0.01)、さらに両薬剤間に統計学的な有意差はなかった(それぞれ5.0 +/- 1.6 seqs vs 5.7 +/- 1.6 seqs、平均 +/- s.e.mean)。
プラセボまたはザミフェナシンと比較して、Hyoscine(スコポラミン)投与後に脈拍数が低下した(9拍/分、P < 0.01)。
皮膚コンダクタンスは、ザミフェナシンやプラセボと比較して、ヒオスカイン投与後に低下した(P < 0.001)。
結論
これらの結果は、M3およびM5に選択的に拮抗する化合物が、乗り物酔いに対して活性を有することを示唆している。
これらの受容体における拮抗作用が、ヒソスチンの抗乗り物酔い作用の基礎となっている可能性がある。
考察と感想
昔の薬理学の授業を思い出してしまいますが、ムスカリン受容体のサブタイプへの結合能の異なる2剤とプラセボの比較でした。
- M1 – 脳(皮質、海馬)、腺、交感神経に分布、胃の壁細胞
- M2 – 心臓、後脳、平滑筋に分布
- M3 – 平滑筋、腺、脳に分布
- M4 – 脳(前脳、線条体)に分布
- M5 – 脳(黒質)、眼に分布
のようです(Wikipediaより…)。Hyoscine(スコポラミン)は,既知の5つのムスカリン受容体サブタイプのすべてに同様の結合親和性を、ZamifenacinはムスカリンM3およびM5受容体に選択的に結合するようですね。
過去にidaverineというM1とM2を拮抗する薬は酔い止めの効果はなかったようで、M3が特異的に効くのではという仮説がもともとあったようです。
まとめ
スコポラミンとザミフェナシンにおいて、乗り物酔いの症状を軽減する効果があるか、両者で有効性に差があるか検討した研究でした。
どちらも乗り物酔いに対し予防効果があり、ほぼ同等だったようです。
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