今回の研究は、ネパールのスラムで行われ、手洗いが、家庭での胃腸炎や感冒の感染率を低下するか検討しています。
先にこの研究の結論とポイントから述べましょう。
- クラスターRCTで手洗いの感染予防効果を検証
- 小児の下痢の発生率のみ低下した
- 成長にはあまり影響がなく、別の介入が必要かもしれない
手洗いの指導や、石鹸やハンドソープを提供すると、乳幼児の下痢の発症率は低下すると報告した研究は多数あります。
研究の概要
目的
この研究では、ネパールのスラム街にいる子供を対象に、手洗いが、小児の成長と健康に与える影響を評価した。
小児期の発育遅延に無症候性感染症が影響する可能性は以前より指摘されていたが、この研究では初めて、手洗いがこれらに対するの影響を評価した。
方法
8つのスラムに居住する乳児を対象に、介入群(n=45)と対照群(n=43)に割り当てた。
介入地域では、小規模な地域ベースの手洗いプログラムが6カ月間実施された。
対照群では、母親は通常の習慣を続けました。
結果
予想されたように、粘膜損傷のレベルが高い小児は、介入期間中の成長(身長・体重など)は不良であった。
対照群と比較して、介入群では下痢の発症率が41%低かった。
しかしながら、手洗いの介入は、粘膜損傷、免疫刺激、成長などには影響がみられなかった。
結論
病原体への曝露を減らすことは、世界的に重要な健康上の優先事項である。この研究は、子供の病的状態を低下させるための手洗いキャンペーンの重要性を確認した。
しかし、著者らのデータは、手洗いの促進は必要であるが、慢性・不顕性感染に対処するには十分ではないことを示唆する。
人間の生物学的観点から、高度に汚染されたスラム環境の状況下での発育不全に対処するために、小児期感染の根本原因に取り組むことが必要である。
感想と考察
手洗いは下痢などの感染症予防効果があるため、
- 手洗いで下痢が減る
- 下痢が減れば、栄養の喪失が減る
- 成長にもプラスとなる
と考えたのでしょう。手洗いで確かに下痢は減りましたが、衛生環境の悪い地域では、そもそも何かしらの慢性感染症があったりで、そこには影響があまりないのでしょう。その場合は急性胃腸炎は予防できても、慢性感染の根本的な治療にはならず、別の介入が必要といったところでしょうか。
まとめ
ネパールのスラムにおいて、石けんと流水の有効性を検討した研究です。
手洗いを奨励すると、下痢の発症率は40%ほど減りますが、小児の体重や身長といった成長にはあまり影響しなかったようです。
Dr. KIDの書籍(医学書)
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/21 02:10:50時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
新刊(医学書):小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
Noteもやっています
当ブログの注意点について