こどもは年間で6〜8回ほどかぜを引くといわれています。
かぜは基本的には特に何もしなくても自然に治ることがほとんどですが、咳、鼻水、発熱などが出て、医療機関を受診したり、市販薬を購入してみたりするのがほとんどでしょう。
特に咳は夜間に悪化しやすく、本人だけでなく、ご両親の睡眠の質にも大きく影響します。
このためか、外来では「咳をなんとかしてほしい。咳を止める薬を出してほしい。」とご相談される機会も非常に多いです。
こどもの咳に対する治療法として、
- はちみつ
- 咳止め薬(デキストロメトルファン)
- 抗ヒスタミン薬
などの選択肢が一般的にはあると思います。
デキストロメトルファンについては市販薬(咳止めシロップ)や処方薬(メジコン®︎)から内服することがあるでしょう。
また抗ヒスタミン(ジフェンヒドラミンやクロルフェニラミン)については、市販薬の咳止めシロップには配合されていることがほとんどです。
一般論になりますが、
- 咳止め薬の咳止め効果がはっきりしていない
- 抗ヒスタミン薬も咳を止める効果は懐疑的
といわれていますが、実際にはちみつと比較してどのくらい違いがあるのか、興味のある方も多いでしょう。
そこで、今回はこちらの研究をピックアップしました。
研究の方法
今回の研究はランダム化比較研究で、
- はちみつ(2.5 ml)
- デキストロメトルファン
- ジフェンヒドラミン
- プラセボ
の4つの治療法を比較しています。
就寝前に内服して、その晩の咳や睡眠の質の変化をみています。
研究の対象となったのは、
- 2−5歳
- 喘息や肺炎など他の疾患がない
- 慢性疾患がない
などを基準にしています。
はちみつについて
はちみつは原著のまま記載すると「natural honey from Kafi-Abad (a village in Yazd)」を使用したそうです。
どうやら「Kafi-Abad」はイランの”Yazd”にある村の名前のようで、ここで採取できた蜂蜜のことを指すようです。
以前、ご紹介した論文でははちみつの詳しい種類(シソ科、柑橘系など)が記載されていましたが、今回の研究でははちみつの種類までは記載されていませんでした。
とはいえ、イランは世界でも有数のはちみつ生産国のようですね。
プラセボグループについて
プラセボ群は、偽薬は与えず対症療法の仕方を指導する方針だったようです。
鼻への生理食塩水の点鼻、加湿、解熱剤の使用方法などを指導しています。
アウトカムの評価
アウトカムはこちらの項目を治療開始前後で計測しています。簡単に訳すと、
- 昨夜の咳の頻度
- 昨夜の睡眠(小児)
- 昨夜の睡眠(保護者)
- 昨夜の咳の重症度
を0〜6点の7段階で評価しています。
研究の結果と考察
合計で160人が研究の対象となり、最終的に139人が解析されました。
はちみつ | デキストロメトルファン | 抗ヒスタミン薬 | プラセボ | |
参加者 | 33人 | 36人 | 34人 | 36人 |
前後比較試験
まずはそれぞれのグループを治療前後で比較しています。
HGははちみつ、DMは咳止め(デキストロメトルファン)、DPHGは鼻水止め(抗ヒスタミン薬)、CGはプラセボ(コントロール:介入なしで対症療法の指導のみ)となっています。
いずれのグループも矢印のように前後で比較すると症状のスコアが減っています。
この同じグループでのスコア減少は、薬やはちみつのグループでは「介入(はちみつや薬)+対症療法+自然軽快」の3つの要素が入っています。
コントロールグループでは、「対象療法+自然軽快」の2つの要素が入っています。
介入後のスコアの比較
次に4つのグループで、介入後(つまりはちみつや薬を投与後)の症状のスコアを比較しています。
4つのグループを同時に比較して、統計学的な有意差がでています。
つまり、少なくとも4つのグループのうち1つのグループは統計学的に有意に異なるという結果になります。
介入後の各グループ間での比較
こちらでは、それぞれのグループ間で比較をしています。
例えば最初の赤矢印のところでは「1. はちみつ vs. 咳止め、2. はちみつ vs. 抗ヒスタミン薬、3. はちみつ vs. コントロール」の3つをそれぞれ統計学的に検定をしています。
結果を大まかな傾向でいうと「はちみつ > 咳止め=抗ヒスタミン薬 > コントロール」の順に良好な成績でした。
疫学者の視点から
今回の研究で最も気になったのは盲検化が不十分な点です。
特にアウトカムの評価方法が保護者の主観によるため、盲検化が不十分でバイアスが生じている可能性があります。
コントロール群の人は、薬・はちみつによる治療も受けられなかった人たちで、咳の症状の主観的な評価は厳しくなることが予測されます。
過去の研究では、咳止めや鼻水止めの薬は、コントロール群と比較して若干良い成績ではあるものの、統計学的な有意差はありませんでした。
一方で、今回の研究では有意差を認めています。その要因の1つとして、コントロール群の設定の仕方もあると思います。
まとめ
今回の研究では、小児の咳と睡眠に関して、「はちみつ > 咳止め=抗ヒスタミン薬 > コントロール」の順で良好な成績でした。
一方で、盲検化が不十分であるため、アウトカムに影響を与えてしまった可能性がありまえます。
はちみつに関しては過去の研究と一貫しているので大きく解釈は変えるつもりはありませんが、咳止めや抗ヒスタミン薬は本当に有効かどうかは、私はやや慎重に捉えています。