- 「咳止めを処方されたのですが、全然効きませんでした」
- 「咳止めって本当に効くのですか?」
- 「ハチミツの咳止めの効果があると聞いたのですが、薬と比べてどうでしょうか?」
など、子供は風邪をひくと咳が出るため、咳にまつわる質問を受けることがあります。
結論から言うと、小児の咳止め薬の有効性はかなり疑問視されており、アメリカ・カナダ・ヨーロッパなどの学術団体は処方すること自体をあまりお勧めしていません。
今回は、こちらの論文を紹介しつつ、最初の質問に答えていこうと思います。
こちらの研究では、ランダム化比較試験(RCT)という手法を用いて、咳止め(デキストロメトルファン)、ハチミツ、偽薬(プラセボ)の有効性を比較しています。
研究の背景
アメリカにおいて、小児の外来受診で最も多い理由が咳です。
特に夜間の咳は子供にとっても辛いですし、親も安眠できなくなるため、受診理由として最も多いのではと推測されています。
日本でもアメリカでも、デキストロメトルファン(日本の処方薬ではメジコン®︎など)が小児の咳止めとして使用されることがあります。
また、OTC(市販薬)にも同じ成分が入っているものも多数あります。
しかしながら、過去の研究ではデキストロメトルファンはプラセボ(偽薬)と比較しても咳止めの有効性ははっきりとは認められていません。
咳にハチミツ
ハチミツは1歳未満にはNGですが、1−2歳以上であれば咳にハチミツを使用し、有効性を認めた研究が多数あります。
このような研究結果を受けたためか、WHOなどは小児の風邪による咳に対して、ハチミツは治療の選択肢の1つとして見なされています。
ハチミツの利点として、安い、(1−2歳以上であれば)安全といった点が挙げられます。
このため、ハチミツの有効性を検討することは、小児の咳止めの治療を考える上で非常に重要です。
今回の研究の目的
今回の研究では、風邪による小児の咳に対して、
- ハチミツ
- デキストロメトルファン
- プラセボ(偽薬)
を使用し、有効性を比較しています。
研究の方法
今回の研究は、
- 2005〜2006年
- アメリカのペンシルベニア州
- 2〜18歳の風邪と診断された小児
(症状は7日以内)
を対象にランダム化比較研究(RCT)が行われました。
就寝前にハチミツ、デキストロメトルファン、プラセボのいずれかを内服し、夜間の咳の症状を評価しています。
咳の症状の評価について
こちらの研究グループは以前も類似のランダム化比較研究をしていますが、咳の評価も同様のものを使用しています。
(論文より拝借)
簡単に説明しますと、咳を5つの項目で評価しており、
- 夜間の咳の頻度
- 咳の重症度
- 咳がどのくらい辛そうだったか
- 咳が子供の睡眠にどう影響したか
- 咳が保護者の睡眠にどう影響したか
の5点を評価しています。評価は主観的なもので、0〜6ポイントで評価されています。
研究の結果と考察
105人の小児が解析の対象となりました。
3つの研究グループでは、年齢、性別、治療開始までの咳の期間、重症度などはほぼ同等でした。
咳の評価
どのグループでも治療を開始してから咳の主観的評価は改善していますが、ハチミツを与えたグループが最も大きく改善していました。
ハチミツ | デキストロメトルファン | プラセボ | P値 | |
サンプル数 | 35 | 33 | 37 | |
咳の頻度 | -1.89 | -1.39 | -0.92 | < 0.001 |
咳の重症度 | -1.80 | -1.30 | -1.11 | < 0.001 |
咳の辛さ | -2.23 | -1.94 | -1.30 | < 0.001 |
睡眠(小児) | -2.49 | -1.79 | -1.30 | < 0.001 |
睡眠(保護者) | -2.31 | -1.97 | -1.51 | < 0.001 |
全体 | -10.71 | -8.39 | -6.41 | < 0.001 |
どの項目もハチミツを使用したグループの方が統計学的には大きく改善しています。
デキストロメトルファン(メジコン®︎)は、ハチミツとプラセボ(偽薬)の間くらいの位置でした。
一見するとデキストロメトルファンが全く効かないというわけではなさそうですが、プラセボグループとだけ比較をして検討をし直すと、統計学的な有意差はありませんでした。
まとめ
今回の研究において、ハチミツ、咳止めの薬(デキストロメトルファン:メジコン®︎)、プラセボを比較すると、ハチミツが最も咳を改善させる効果がありました。
一方で、デキストロメトルファンはプラセボより咳の症状を改善させる傾向にはありましたが、この2つのグループでは統計学的な有意差がありませんでした。