ハチミツが小児の夜間の咳に有効というのは、過去のRCTとメタ解析で検証されていますが、盲検化が不十分なものが問題が残る研究が多かったのを記憶しています。
今回の研究は、きちんとした「プラセボ」を作成してハチミツの有効性を検証したRCTが報告されたので、紹介しようと思います。
- ハチミツが夜間の蜂蜜に有効化を検証した二重盲検RCT
- 蜂蜜群とプラセボ群とも二夜の試験で夜間咳嗽と睡眠障害の改善を示したが、ハチミツはプラセボのシロップに勝るわけではなさそう
Nishimura T, Muta H, Hosaka T, Ueda M, Kishida K; Honey and Coughs Study Group of the Society of Ambulatory and General Paediatrics of Japan. Multicentre, randomised study found that honey had no pharmacological effect on nocturnal coughs and sleep quality at 1-5 years of age. Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164. doi: 10.1111/apa.16509. Epub 2022 Aug 9. PMID: 35927828.
2022年に日本から公表された貴重な論文です。
蜂蜜は1-5歳児の夜間咳嗽および睡眠の質に対して薬理学的効果を示さないかも[日本編]
研究の背景/目的
世界保健機関は蜂蜜を咳嗽の潜在的治療薬として挙げているが、上気道感染症(URTI)に伴う咳嗽への使用を支持するエビデンスはほとんどない。
本研究では、蜂蜜が夜間の咳や睡眠障害にどの程度有効であるかを評価した。
研究の方法
この多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験は、URTIで7日以内の咳をする1~5歳の患者を対象としたものである。
日本国内の13の一般小児科診療所からリクルートした。
参加者は、「蜂蜜(acacia honey)」または「蜂蜜風味のシロップのプラセボ」を、2晩連続で、眠りにつく1時間前に摂取しました。
両日の夜間咳嗽と睡眠困難を7段階のリッカート尺度で評価した。
研究の結果
161名のデータ収集は2021年11月20日から2022年2月28日に行われ、78名が蜂蜜群に、83名がプラセボ群にランダムに振り分けられた。
両群とも1夜目、2夜目ともに改善が見られたが、蜂蜜群とプラセボ群においては統計学的な有意差は認められなかった。
結論
蜂蜜群とプラセボ群とも二夜の試験で夜間咳嗽と睡眠障害の改善を示したが、ハチミツはプラセボのシロップに勝るわけではなさそうであった。
考察と感想
使用された「アカシアはちみつ」は、ニセアカシア(ハリセンジュ/ハリエンジュ)という北米原産のマメ科樹木の花から採取できるはちみつのようです。
この研究は過去の研究の欠点を上手く補完しています。
例えば、過去の研究では患児、保護者、担当医・医療スタッフの盲検化は行われてないものがほとんどでしたが、この研究では全員盲検化されています。
コントロール群のプラセボ用に本物のハチミツを模して作られたシロップが使用されています。果糖、ブドウ糖、ショ糖、麦芽糖、蜂蜜の香料、カラメルを混合して色、粘度、風味が蜂蜜とそっくりになるように「偽(プラセボ)」シロップを作ったようです。
この研究の解釈ですが「ハチミツが効かない」というより、甘くてどろっとしたものなら、ハチミツでなくても良いかもしれない、ということになると思います。
ハチミツは1歳未満に投与すると乳児ボツリヌスのリスクがあるので、基本的に使用できません。より安全なシロップで咳が改善されるに越したことはないですし、創薬のヒントにもなる気がします。
まとめ
ハチミツが夜間の蜂蜜に有効化を検証した二重盲検RCTです。
蜂蜜群とプラセボ群とも二夜の試験で夜間咳嗽と睡眠障害の改善を示したが、ハチミツはプラセボのシロップに勝るわけではなさそうだったようです。
◉筆頭著者の西村先生から直接、本研究の結果を教えていただきました。誠にありがとうございます。西村先生の書籍は全て拝読させていただいております:
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