これまでの研究結果から、処方されている「咳止め薬」の咳止めの効果が不十分であるという矛盾がわかっています。
例えば、強めの咳止めといえばコデイン、ついでデキストロメトルファン(メジコン®︎)ですが、これらの薬が2歳以上の小児のかぜの咳に対して、有効性を証明することができませんでした。
さらに、日本ではチペピジン(アスベリン®︎)という咳止めが小児に非常によく処方されていますが、残念ながらこの薬の有効性や安全性を検討した研究をみつけることはできませんでした。
前回、こちらの論文をご紹介しました。
この研究では「はちみつ vs. デキストロメトルファン(メジコン®︎)vs. プラセボ(偽薬)」の3種類で夜間の咳止めの効果を検討しています。
結果として、はちみつのが最も優れた咳止め効果があり、デキストロメトルファンとプラセボには咳止め効果として統計学的な有意差はありませんでした。
もう少し平たく説明すると、はちみつには咳止めの効果が期待できるけれども、デキストロメトルファン(メジコン®︎)には十分な効果が期待できないとも解釈できます。
はちみつの咳止め効果を研究した論文は複数あるため、今回もその1つをピックアップします。
研究の背景
こどもがかぜをひくと咳が出てくることが多いです。
咳はこどもも保護者も睡眠を妨げてしまい、こどもも保護者も睡眠不足に陥るため非常に辛い状況でしょう。
場合によっては、こどもは幼稚園・保育園を欠席する必要がでてきますし、保護者も睡眠不足で仕事に行くか、仕事を休むこともあるでしょう。
咳のホームケア
海外でも様々なホームケアがあるようで、例えばlicorice(甘草の一種)、clove(クローブ)、レモン、はちみつなどがしようされています。
近年、WHOをはじめ多くの機関ははちみつの有効性に注目しています。
しかし、はちみつといっても様々な種類があるようです。
例えば、過去の研究で有効性が証明されたのは buckwheat honey(そばはちみつ)です。
一方で、citrus honey(シトラス(柑橘系)はちみつ)やlabiate honey(シソ科はちみつ)もあり、これらの有効性ははっきりわかっていません。
そこで、こちらの研究では、異なるはちみつでも咳止めとしての有効性があるのかを検討しています。
研究の方法
研究の対象となったのは、
- 2009年にイスラエルにある著者らの関連施設に受診
- 1〜5歳
- 急性上気道炎(かざ)の診断:咳や鼻汁は7日以内
- 薬の内服なし、はちみつの摂取なし
を満たす小児です。
治療について
治療は4つのグループにわけ、受診した患者にランダムに割つけています。
- Eucalyptus honey(ユーカリはちみつ)
- Labiate honey(シソ科はちみつ)
- Citrus honey(シトラス系はちみつ)
- プラセボ(Silian date extract)
の4つです。
私自身があまりはちみつの種類に詳しくないので、少しだけメモ程度に追記します。
はちみつの種類 | Eucalyptus Honey | Labiate Honey | Citrus Honey |
(日本語) | (ユーカリはちみつ) | (シソ科はちみつ) | (シトラス系はちみつ) |
Family(科) | Myrtaceae | Labiatae | Rutaceae |
(日本語) | (フトモモ科) | (シソ科) | (ミカン科) |
こちらが今回の研究で使用された3つのはちみつでした。
また、プラセボで「Silan date extract」とありますが、「dates(デーツ)」は中東地域ではナツメヤシの果実のことを言うそうです。
こちらの果実から抽出されたシロップのことを指すようで、”date syrup(デーツシロップ)”とか”date honey”と呼んでいるようです(参照1, 2:wikipedia)。
見た目がはちみつに似ているので、プラセボとして使用されたようです。
これらを寝る30分前に10g飲ませるように指導しています。
飲ませ方は、そのまま与えるか、(カフェインを含まない)飲み物に入れて飲ませるように指導しています。
咳の評価
咳の評価は以下の質問をしています。
簡単に訳しますと、
- 昨夜の咳の頻度は?
- 昨夜の咳の重症度は?
- 昨夜の咳はどのくらい辛そうだった?
- 昨夜は咳は睡眠にどのくらい影響した?(こども)
- 昨夜は咳は睡眠にどのくらい影響した?(おとな)
で0点(全くなし)〜6点(非常にひどい)で点数をつけてもらっています。
研究の初日に、こどもの咳の重症度、睡眠(おとな・こども)の3つの項目のうち、2つ以上で3点以上をつけた患者を研究対象としています。
さらに1日後に同じ質問をして、どの程度咳の症状と睡眠が変化したのかをみています。
研究結果と考察
ユーカリはちみつ | シソ科はちみつ | シトラスはちみつ | プラセボ | |
参加者 | 75人 | 75人 | 75人 | 75人 |
解析対象 | 64人 | 62人 | 73人 | 71人 |
LTFU | 11人 | 13人 | 2人 | 4人 |
こちらが治療の割付の表になります。いずれのグループも75人治療を割付ていますが、ドロップアウト(LTFU)にばらつきがあります。
特に、ユーカリはちみつとシソ科はちみつのグループで多かったです。
患者背景ですが、4つのグループは性別以外(年齢、症状の期間など)は均一でした。
前後比較について
治療前後で咳の重症度などを比較しています。
咳の重症度 | ユーカリ はちみつ |
シソ科 はちみつ |
シトラス はちみつ |
プラセボ |
治療前 | 3.7 | 3.7 | 3.8 | 3.5 |
治療後 | 1.9 | 1.9 | 1.8 | 2.6 |
前後比較 | 有意差あり | 有意差あり | 有意差あり | 有意差あり |
例えば、咳の重症度を治療前後で比較すると、すべてのグループで咳の重症度が軽快しています。
プラセボ群でも咳の重症度は軽快しており、この前後比較は治療効果そのものというより、自然経過による軽快も含んだ検定になっています。
同じような傾向は、咳の頻度、苦痛、こどもと保護者の睡眠でも認められました。
スコア減少をグループ間で比較
今度はどのくらいベースラインからスコアが減少したかを、グループ間で比較しています。
咳の重症度 | ユーカリ はちみつ |
シソ科 はちみつ |
シトラス はちみつ |
プラセボ |
治療前 | 3.7 | 3.7 | 3.8 | 3.5 |
治療後 | 1.9 | 1.9 | 1.8 | 2.6 |
スコア減少 | 1.8 | 1.8 | 2.0 | 0.9 |
スコア減少でみると、プラセボ群は1点ほどしか減少していませんが、はちみつグループはいずれも2点前後スコアが減少しています。
この差を比較すると、統計学的な有意差がありました。
スコア減少に注目して表を作ると、以下のようになります。
スコア減少 | ユーカリ はちみつ |
シソ科 はちみつ |
シトラス はちみつ |
プラセボ |
咳の頻度 | 1.7 | 2.0 | 1.8 | 1.0 |
咳の重症度 | 1.8 | 1.8 | 2.0 | 0.9 |
咳の辛さ | 2.0 | 2.2 | 2.0 | 1.2 |
睡眠(こども) | 2.1 | 2.0 | 1.7 | 1.2 |
睡眠(保護者) | 2.2 | 2.1 | 1.9 | 1.3 |
合計 | 9.8 | 10.1 | 9.5 | 5.8 |
ども項目をみても、はちみつグループ3つのほうが、大きくスコアが減少しています。
副作用について
胃痛、嘔吐などのをはちみつ3グループで四人、プラセボグループで一人のみでした。
感想と考察
はちみつを投与したほうが咳は軽減するかもしれないという結果でした。
はちみつにも様々な種類があるようですが、少なくともシトラス系、ユーカリ、シソ科のものは咳の軽減効果があるのかもしれません。
あまり蜂蜜について詳しくないのですが、日本で製造されているはちみつとの違いがある場合、同じような効果を認めない可能性はあるかもしれません。
これは一般可能性(generalizability)の問題ともいえます。
著者らはドロップアウトによる選択バイアスについてはあまり言及していませんでしたが、どのはちみつグループも似たような結果であり、バイアスは小さいか、そもそもなかったのかもしれませんね。
RCTやコホート研究の場合、追跡の途中でドロップアウトされると、選択バイアスの可能性があります。
かならず選択バイアスになるかというと、そういうわけでもなく、ドロップアウトした人が、アウトカムと何らかの関連性をもっていた場合になります。
ですので、「ドロップアウトが多い=選択バイアス」とステレオタイプに考えすぎないようにしましょう。
著者らも本文中で述べていますが、
- はちみつが咳を軽快したのか
- デーツシロップが咳の軽快を阻害したのか
は、この研究だけでは判断は難しいです。
著者らは過去の研究結果と、デーツシロップに咳を誘発する可能性が低いと点から、はちみつの有効性を間接的に支持しています。
まとめ
今回の研究では、シトラス、ユーカリ、シソ科のはちみつは小児の咳を軽快する効果がありそうでした。
一晩の効果だけ計測しているので、今後、もう少し長期に追跡した研究をみる機会があればと思います。