鉄欠乏性貧血の問題点を以前も紹介してきましたが、今回は鉄欠乏と認知機能の関連を調査した研究を見つけたため、ピックアップしました。
本記事では下記の内容を解説します。
本記事の内容
- 鉄欠乏と子供の認知機能について
- 研究の方法
- 研究の考察
今回の研究は2001年にPediatrics誌に掲載された記事になります。
NHANESというアメリカの大規模データを使用しています。
鉄欠乏と認知機能について
鉄欠乏の起こりやすい年齢
鉄欠乏性貧血は、小児の血液疾患で最も多く、
- 乳児期
- 思春期女児
に起こりやすいといわれています。
乳児期に貧血が起こりやすいのは、体が急成長する9〜24ヶ月の間に、骨髄や肝臓に貯蔵されていた鉄が枯渇してしまうからです。
思春期女子が鉄欠乏になりやすいのは、食事からの鉄分摂取不足、急成長による鉄需要の増加、生理による鉄の喪失、の3つが重なって生じていると考えられています。
鉄欠乏の症状
無症状のことも多いですが、鉄欠乏になると、
- 貧血になる
- 運動をすると、すぐに息切れする
- 認知機能が低下する
- 発達が遅れる
などが指摘されています。
今回は認知機能として、6〜16歳の小児において、鉄欠乏とテストの点数について検討しています。
研究の方法
少しデータが古いですが、1988-1994年のNHANESというデータを用いて、6〜16歳を対象に研究が行われました。
鉄欠乏と貧血の定義
調査した項目として、
- トランスフェリン飽和度
- 遊離赤血球プロトポルフィリン
- 血清フェリチン
など鉄動態に関する項目をみています。これらのうち、2つが異常値の場合に鉄欠乏状態と判断しています。こちらが使用されたカットオフ値です(原著から拝借)。
貧血はヘモグロビン値で判断しています。
これら2つの組み合わせで、
- 正常
- 鉄欠乏のみ(貧血なし)
- 鉄欠乏性貧血
の3つのグループに分けています。
認知機能について
認知機能のテストとして、
- Wechesler知能テスト
- Wide Range Achievementテスト:数学と英語(reading)
の2種類が使用されています。
研究の結果
5398人が研究対象で、3%が鉄欠乏状態でした。
特に思春期の女児で、鉄欠乏の割合が高かったです(8.7%)。
鉄欠乏と数学のテスト
数学(Math)のテストの点数を比較すると、
- 正常:93.7
- 鉄欠乏のみ:87.4
- 鉄欠乏性貧血:86.4
という結果でした。Student t-testをすると、正常グループが統計学的に有意に高い結果でした。
アウトカムを平均点以上vs 以下に分けて、ロジスティック回帰分析をすると、正常グループと比較して、平均点以下になるオッズは
- 鉄欠乏群は2.3倍(95%CI, 1.1-4.4)
- 鉄欠乏性貧血群は2.4倍(95%CI, 1.1-5.2)
という結果でした。
貧困、人種、教育、女性に層別化
貧困、人種、教育レベル、女性にグループ分けをして、鉄欠乏ありvsなしで数学の成績をみると、以下のようになりました。
図をから鉄欠乏のあるグループ(白)は正常グループ(灰)と比較して、テストの点数が低い傾向にありました。
統計学的な有意差を認めたのは、思春期女児のみです。
鉄欠乏でなぜ脳の認知機能が落ちるのか?
鉄欠乏性貧血になるまでの機序ですが、
- 体内の鉄分が枯渇する
- ヘモグロビン値が下がる、赤血球数が減る
です。この辺りは非医療者でも理解されている方も多いと思います。
さらに、血中の鉄分が減り、赤血球数が少なくなると、
- 鉄に依存した酵素活性が減る
- 脳への酸素の運搬が減る
ため、認知機能が低下すると考えられています。
まとめ
今回の論文では、鉄欠乏が小児の学業(主に数学)へ悪影響することが示唆されました。
特に悪影響の度合いが大きそうなのは、思春期の女子で、鉄分不足に気をつけたほうが良いかもしれません。
アメリカなどでは生後9ヶ月〜1歳の間に鉄欠乏性貧血のスクリーニングが行われています。乳幼児期の鉄欠乏が、将来の認知機能に悪影響を及ぼす可能性が指摘されており、早期から鉄欠乏に気を配ったほうが良いと考えています。