当ブログでは、乳児期に牛乳を飲みすぎたり、完全母乳栄養だと生後6ヶ月以降に鉄欠乏になるリスクが上昇することを説明してきました。
一方で、鉄欠乏性貧血が発達に与える影響を検討した研究を知りたい方もいるでしょう。そこで、本記事では下記の内容を解説します。
本記事の内容
- 乳児の鉄欠乏と発達について
- 研究の方法
- 研究結果と考察
こちらの論文は、Archives of disease in childhoodという雑誌に掲載されたものです。
少し古い研究ですが、乳児期の鉄欠乏と発達をみた貴重な報告と捉えています。
乳児の鉄欠乏と発達について
鉄欠乏性貧血は乳児期に最も多い栄養不足の1つです。
対象集団や検査のカットオフ値によって報告が大きく異なりますが、およそ12〜30%の乳児が鉄欠乏である可能性が示唆されています。
途上国を対象に、鉄欠乏と認知機能低下を関連づけた研究が複数されていますが、これらの報告では交絡因子の対処が不十分であったり、前後関係が不明瞭な点が気がかりです。
このため、鉄欠乏と認知機能の低下は、因果関係なのか、単なる偽りの相関なのか、はっきりしていません。
このため、今回の研究では、コホート研究で鉄欠乏性貧血と18ヶ月時点での発達をみています。
研究の方法
1991年の4月から1992年の12月にかけて、14,138人の新生児を対象に、コホート研究が行われました。このうち、10%をランダムに抽出し、鉄欠乏性貧血と発達の調査をしています。
18ヶ月時点での発達は、Griffiths Scales of Mental Developmentという指標で評価をしています。この指標では、
- 粗大運動
- 聴覚と言語発達
- 手と目
- 社会性
などを調査しています。
計測エラーを避けるため、発達を評価する際、貧血があるかいなかは分からない状態(盲検化)にしています。
交絡因子の対処について
コホート研究では必ず交絡因子に影響を受けるため、以下の項目を統計学的に対処しています:
- 母の出産数
- 性別・人種
- 完全母乳
- 喫煙
- 母の教育歴
研究の結果と考察
1141人の小児が対象となりました。
ヘモグロビン値と運動発達について
著者らはこちらの図を使用して、「ヘモグロビン値が下がるにつれて、18ヶ月時点での運動発達の指標が低下している。また、ヘモグロビン値が上昇すると、運動発達の値はプラトーに達した」と主張しています。
本当でしょうか?
まず、著者らはGeneralized Linear Model を使用しています。(詳細が論文には記載されていませんでしたが、おそらく正規分布を仮定しているものと考えています。)
このモデルとデータがあまりフィットしているようには見えないです。
パッと見て、ヘモグロビンが正常群でも、運動発達の低下している患者が多数存在します。
次に、モデルに曲線を仮定して、二次関数を使用しています(Y = a + bX + cX2)。「プラトーにある」というには、spline modelなどを使用したほうが良いでしょう。
この図と曲線ですと、著者らの主張を支持するのは、私個人としては難しいと考えました。
ヘモグロビンの値で層別化をして、18ヶ月時点での発達の指標をANOVA検定しています。
確かにヘモグロビンの値が低いと、運動発達の指標が低く出ています。しかし、低ヘモグロビン値(<90)の2グループはサンプルサイズが少なすぎる気がします(N=4 + 6)。この点は差し引いて解釈したほうがよいでしょう。
つまり、仮に他のバイアスがないとして、本当に運動発達が低下するのか、サンプル数が少ないため出てしまったのか(80台に極端に低いのがありますよね)、今回の研究で結論づけるのは難しいでしょう。
考察
今回の研究では著者らは「生後8ヶ月時点で貧血になると、生後15ヶ月時点の運動発達が低下する」と主張しています。
確かにテーブル(表)だけをみると、そうみえますが、Scatter plot(図)やサンプル数を考えると、著者らのデータのみで結論づけるのはやや難しいと思いました。
まとめ
今回の研究では、乳児の鉄欠乏性貧血と発達を調査しています。
著者らは鉄欠乏性貧血により発達が遅れる可能性を示唆していますが、私がみる限りでは、どちらとも取りづらい(発達が遅れる傾向があるとも、あまり影響はなさそう)データでした。
他の研究結果とあわせて判断したいところです。
(ピックアップした論文が、非常に曖昧な結論になってしまい、申し訳ありません)
あわせて読みたい