科学的根拠のある子育て・育児

乳児が下痢の時、乳糖はさけた方がよいのか?[イスラエル編]

  •  下痢の時、乳糖を避けるように

という指導もよくあるようです。

急性胃腸炎のときは、小腸の乳糖分解酵素が欠乏しやすく、炭水化物の吸収が悪くなることが知られています。このため、1980年代くらいまでは、「ミルクを薄めるように」「乳糖を含むミルクを避けるように」といった指導がよくされていたようです。

しかし、あくまでも「理論上の話」であり、本当にこの考えが正しいか、実臨床に沿った理論なのかは検証する必要があり、1980〜90年代に数多くの研究がされています。

今回は、この方法にメリットがあるのかを触れた論文の解説をしようと思います。

ポイント

  •  小児の下痢の時、乳糖を避けるべきか検討した研究 
  •  乳糖を避けると、下痢の期間は短縮する傾向にある
  •  しかし、今回の研究はRCTではなく、バイアスの混入が危惧される
マミー
マミー
下痢のとき、ミルクを変更する必要がありますか?

Dr.KID
Dr.KID
過去の論文を見て、一緒に考えていきましょう。

乳糖を避けるべきかは、様々な研究で検討されており、今回説明した研究のみでなく、他の研究もみて、総合的な判断が必要と考えています。

 研究の概要

今回は、小児の下痢において、乳糖を避けるべきか検討した研究になります。

イスラエルで、1984年に報告された前後比較試験になります。

 対象患者

対象となったのは、

  •  1歳未満の乳児
  •  胃腸炎で入院
  •  下痢の期間は受診時に7日以内

の患者が対象です。

治療

治療は、

  1.  点滴による脱水補正
  2.  絶食を24時間

した後に、以下のような方針にしています。

  1.  通常のミルクを再開
  2.  大豆由来のミルクを再開

となります。

大豆由来のミルクとしては、ボンラクトがあります(こちらも推奨ではありません)

ボンラクトI
和光堂

最初の1ヶ月は通常のミルクを、次の1ヶ月は大豆由来のミルクを使用したようです。

研究結果

それぞれのグループに35人 vs. 40人ずつが参加しています。

結果は以下の通りでした

1. 下痢の期間

下痢の期間は、以下の通りでした。

グループ 下痢の期間
平均(SD)
1. 普通ミルク 6.28日
(0.67)
2. 豆乳ミルク 3.48日
(0.23)

普通のミルクより、乳糖が入っていない大豆由来のミルクのほうが、下痢の期間は短かったです。

2. 点滴日数

点滴が必要だった日数は以下の通りでした:

グループ 下痢の期間
平均(SD)
1. 普通ミルク 6.8日
(0.88)
2. 豆乳ミルク 4.65日
(0.24)

こちらも豆乳由来のミルクのほうが、点滴日数は短い傾向です。

3. 入院日数について

入院日数を比較しています:

グループ 下痢の期間
平均(SD)
1. 普通ミルク 12.8日
(1.65)
2. 豆乳ミルク 10.5日
(0.73)

入院期間も、大豆からできたミルクを使用したほうが短い傾向にありました。

 

 感想と考察

今回の研究に関しては、小児が下痢をしたときに、乳糖を避けて、大豆由来にミルクにしたほうが、一見するとメリットがありそうにみえます。

しかし、今回の研究の問題点は、ランダム化と盲検化がきちんと行えていない点です。最初の1ヶ月目は通常のミルクを、2ヶ月目は豆乳由来のミルクを使用しています。これは、評価する側も、治療をうける側もわかっている状態です。

例えば、今回の研究者らが、乳糖を避けることにこだわりの強いチームであった場合、その信念が間違った形で研究に反映されてしまっている可能性もあります。

類似のRCTの研究では、下痢の期間が変わることはありましたが、入院日数や点滴の期間も変化しており、なんとなくおかしなデータのような気もします。

Dr.KID
Dr.KID
過去の研究も参照する必要があります。

まとめ

今回は、乳児の下痢に対して、乳糖をさけるべきかを検討しています。

乳糖を避けたほうが、下痢の期間が短く、入院日数も短縮する傾向にありました。

しかし、この研究ではランダム化と盲検化が不十分で、やや極端なデータがでている印象でした。

類似の研究は多数出ているので、今後も報告していければと思います。

Dr. KIDの書籍(医学書)

小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:

小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。

 

新刊(医学書):小児の抗菌薬のエビデンス

こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。

日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。

created by Rinker
¥3,850
(2024/12/21 02:10:51時点 Amazon調べ-詳細)

 

Noteもやっています

かぜ薬とホームケアのまとめnote

小児のかぜ薬とホームケアの科学的根拠

 

小児科外来でよくある質問に、科学的根拠を持って答えるnote

保護者からのよくある質問に科学的根拠で答える

 

 

 

当ブログの注意点について

Dr.KID
Dr.KID
当ブログは医療関係者・保護者の方々に、科学的根拠に基づいた医療情報をお届けするのをメインに行なっています。参考にする、勉強会の題材にするなど、個人的な利用や、閉ざされた環境で使用される分には構いません。

Dr.KID
Dr.KID
一方で、当ブログ記事を題材にして、運営者は寄稿を行なったり書籍の執筆をしています。このため運営者の許可なく、ブログ記事の盗用、剽窃、不適切な引用をしてメディア向けの資料(動画を含む)として使用したり、寄稿をしないようお願いします。

Dr.KID
Dr.KID
ブログの記載やアイデアを公的に利用されたい場合、お問い合わせ欄から運営者への連絡お願いします。ご協力よろしくお願いします。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。
RELATED POST