ITPの診断は基本は臨床診断ですが、抗血小板関連抗体などの存在は、以前から言われています。
今回は、ITPにおいて、抗核抗体がどのような役割にあるのかを検討した研究になります。
Hazzan R, Mukamel M, Yacobovich J, Yaniv I, Tamary H. Risk factors for future development of systemic lupus erythematosus in children with idiopathic thrombocytopenic purpura. Pediatr Blood Cancer. 2006 Oct 15;47(5 Suppl):657-9.
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
小児特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) における全身性エリテマトーデス (SLE) の後期発生のリスクは、現在不明である。
方法
著者らは小児ITP222人を、平均4.2 +/- 4.9年間追跡し、合併症の発生率と危険因子を後向きに評価した。
結果
追跡期間において、小児ITPの3.6% (8/222) がSLEを発症した。
全員がITPの診断時点で抗核抗体 (ANA) 陽性であった。
また、年齢の高い女児が多い傾向で(12.7 +/- 3.6対6.4 +/- 4.3歳)で、慢性ITP (87.5対46%;P=0.02)の可能性が高く、 ANAの抗体価も高かった.
一方で、ANA陽性のITP児の過半数(14/22、64%)はSLEを発症しなかった。
結論
著者らのデータは、 ANA陽性が小児のITP患者の診断時でしばしば認められ、後にSLEを発症することを示す。
考察と感想
Abstractだけでは、理解が浅くなってしまいますので、少し私の言葉で補足をしてみます。
成人からのデータがメインですが、SLEの最初の症状として血小板減少が5%ほどの症例であるようです。このため、ITPと思って治療を開始したけれども、後にSLEを発症した例もあるようで、確率的には成人のITPの1〜5%くらいがこれに該当するようです。
一方で、この現象が小児でも生じるかは研究が少なく、1990年代後半に行われたものでは、ANA陽性例でも誰も後にSLEを生じなかったというデータもあったようです。今回は、その追試に当たる研究であったと思います。
結果については、論文のデータはややみづらいと思いました。「ITP診断時のANAが、その後のSLEを予測するか?」というテーマであれば、以下のような2×2 Tableを提示してほしかったです(論文を読み解いて作成しました):
例えば、ITP診断時のデータですと、以下の通りでした。
ANA (+) |
ANA (–) |
計 | |
SLE (+) |
7 | 1 | 8 |
SLE (–) |
6 | 207 | 214 |
合計 | 13 | 208 | 222 |
この2×2 Tableですと、RRやRDは以下のようになります
ITP診断時にANA陽性だと、後にSLEを発症するリスクは
- リスク比で112倍 [14.9〜843.4]
- リスク差で53.4% [26.2〜80.5%]
という経過でした。
ANA(-)で後にSLE(+)となった小児は、実はITP診断後3ヶ月でANA(+)になっていたようです。このデータを加味すると、以下のようになります:
ANA (+) |
ANA (–) |
計 | |
SLE (+) |
8 | 0 | 8 |
SLE (–) |
6 | 208 | 214 |
合計 | 14 | 208 | 222 |
この場合ですと、リスク差で計算して57%上昇しているのが分かります。
まとめ
イスラエルで行われた後方視的な検討です。
小児ITPの診断時にANA陽性のケースはしばしば認められ、後にSLEを発症することをが示唆されました。
小児において、初診時にITPで、後にSLEであったと判明する例は、全体の3%ほどのようです。
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