ITPの診断は基本的には臨床的に行われます。
一方で、臨床的にITPと診断したとして、後から別の病歴を辿ることも理論上はあり得ます。例えば、成人のSLEにおいては、初期に血小板減少のみのことも5%前後であるようで、この場合はITPとSLEの区別が難しくなります。
この診断の誤分類を避けるため、抗体検査が有用ではないかと研究されたものはいくつかあります。
今回は、日本の研究を見てみましょう。
ITPはかつて特発性血小板減少性紫斑病 or 免疫性血小板減少性紫斑病、その後、免疫性血小板減少症と呼び名が変わっています。
研究の概要
背景・目的
SLEの初発症状が血小板減少というケースもあるようです。
このため、慢性ITPと診断された患者が後に全身性エリテマトーデス (SLE) を発症するというケースがあるようです。
このような経過を辿る可能性の高い患者を同定/予測する手掛かりを検出するため、後向き研究が行われた。
方法
1965-83年に診療をした慢性ITP患者が対象です。年齢は15-59歳でした。
結果
慢性ITP患者39名のうち、 4名はITPの初期診断の後、4.5~14年の間にSLEの診断基準を満たした。
残りの35人の患者は、少なくとも5年の追跡後にITP以外の症状は出なかった。
来院時に血小板減少症を示したSLE患者では、診断基準の4または5所見のみが観察された。
特に興味深いことに、 SLEを発症した全患者は抗SS‐A抗体陽性であったが、 ITP患者はこの抗体を持たなかった。
さらに、臨床症状が少ないにもかかわらず、 1人の患者ではループス腹膜炎、もう1人の患者では肺高血圧症を認めた。
結論
抗SS‐A抗体は、 初期はITPを臨床像として生じるSLEの早期検出に優れた方法であるかもしれない。
考察と感想
Table1には、抗核抗体の陽性率 [23% (9/35)]などが記載されていました。
- 抗核抗体 9/35 (23%)
- 抗DNA抗体 1/35 (3%)
- 抗Sm抗体 0
- 抗RNP抗体 1/35 (3%)
- 抗SS-A抗体 4/35 (10%)
著者らはITPの初期で抗SS-A抗体の陽性の症例は、後にSLEが発症する傾向にあったと述べています。実際35名ですと、どのような分布になるのでしょうか。
抗SS-A | (+) | (–) | 計 |
SLE+ | 4 | 0 | 4 |
SLE- | 0 | 31 | 31 |
合計 | 4 | 31 | 35 |
ちなみに、抗核抗体の結果は以下のような分布です:
ANA | (+) | (–) | 計 |
SLE+ | 4 | 0 | 4 |
SLE- | 5 | 26 | 31 |
合計 | 9 | 26 | 35 |
感度は100%、特異度は83.9% (26/31)という計算になりますね。
まとめ
日本で行われた成人のITPにおける抗体検査を中心とした後方視的な検討です。
ITPの診断時に抗SS-A抗体が陽性であると、後にSLEの臨床像を呈する傾向があったようです。
(2024/12/21 12:06:39時点 Amazon調べ-詳細)
Dr. KIDの執筆した書籍・Note
絵本:めからはいりやすいウイルスのはなし
知っておきたいウイルスと体のこと:
目から入りやすいウイルス(アデノウイルス)が体に入ると何が起きるのでしょう。
ウイルスと、ウイルスとたたかう体の様子をやさしく解説。
感染症にかかるとどうなるのか、そしてどうやって治すことができるのか、
わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/12/21 11:30:52時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:はなからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、鼻かぜについて、わかりやすいストーリーと絵で展開します。
(2024/12/21 13:39:04時点 Amazon調べ-詳細)
絵本:くちからはいりやすいウイルスのはなし
こちらの絵本では、 胃腸炎について、自然経過、ホームケア、感染予防について解説した絵本です。
(2024/12/21 13:39:05時点 Amazon調べ-詳細)
医学書:小児のかぜ薬のエビデンス
小児のかぜ薬のエビデンスについて、システマティックレビューとメタ解析の結果を中心に解説しています。
また、これらの文献の読み方・考え方についても「Lecture」として解説しました。
1冊で2度美味しい本です:
(2024/12/21 02:10:50時点 Amazon調べ-詳細)
小児の診療に関わる医療者に広く読んでいただければと思います。
医学書:小児の抗菌薬のエビデンス
こちらは、私が3年間かかわってきた小児の抗菌薬の適正使用を行なった研究から生まれた書籍です。
日本の小児において、現在の抗菌薬の使用状況の何が問題で、どのようなエビデンスを知れば、実際の診療に変化をもたらせるのかを、小児感染症のエキスパートの先生と一緒に議論しながら生まれた書籍です。
noteもやっています