- 症状のみでインフルエンザを正確に診断できないだろうか?
- 迅速診断キットの精度は、症状が出てからの時間で異なるだろうか?
臨床医だけでなく、保護者の方々も興味がありそうな質問です。
確かに、実際に外来でも「先生はインフルエンザだと思いますか?」「区別つけられますか?」となかなか鋭い質問を受けることがあります。結論から言うと、臨床的な症状から、インフルエンザとその他のかぜを高い精度を持って見分けることは難しいです。
さらに、インフルエンザの迅速診断キットにも、感度・特異度があり、発熱してからの期間で精度が異なります。
今回は、日本のデータを発見しましたので、ご紹介させていただこうと思います。
- インフルエンザの診断に関する妥当性の研究
- 臨床診断でインフルとその他の風邪を見分けるのはやや困難かも
- 迅速検査は少なくとも6〜24時間は経過してから
インフルエンザの診断:小児科領域における臨床診断と迅速診断キットによる診断について. 2004-7; 5: 227-233
研究の方法
今回の研究は2002/03のシーズンに、小児において行われた研究で、
- 臨床診断
- 迅速検査
- ウイルス分離
の3つから、どのくらい精度の高い診断ができるのかを、前者2つと、ウイルス分離で比較しています。
対象となったのは、
- 0-15歳
- 研究を実施したクリニックに受診した
小児などが該当しています。
研究結果と考察
症状について:インフルエンザらしさとは?
インフルエンザ vs. 非インフルエンザで比較してみると、以下のような違いがあったようです:
インフル | A | B | なし |
N | 228 | 176 | 368 |
鼻汁 | 65.5% | 53.4% | 51.6% |
咳 | 81.7% | 63.1% | 54.6% |
痰 | 38.1% | 26.7% | 24.5% |
頭痛 | 40.6% | 41.5% | 29.9% |
くしゃみ | 29.1% | 21.6% | 16.6% |
悪心 | 15.1% | 7.4% | 9.0% |
咽頭痛 | 43.9% | 37.5% | 27.7% |
A型とインフルなしで比較をしてみると、咳・鼻汁・痰・頭痛・咽頭痛などは、A型の方がやや多い印象ですね。
一方で、B型とインフルなし区別はかなり厳しいですね。
症状について:区別に役にたたなさそうな症状?
インフル | A | B | なし |
N | 228 | 176 | 368 |
関節痛 | 14% | 14.8% | 10.1% |
発疹 | 0.7% | 1.1% | 1.1% |
最高体温 | 39.4 (0.52) |
39.1 (0.63) |
39.1 (0.64) |
最高と最低 | 40.5 37.7 |
40.4 37.4 |
40.5 37.0 |
下痢 | 7.2% | 8.5% | 10.1% |
鼻閉 | 34.9% | 29.0% | 26.1% |
筋肉痛 | 12.6% | 11.4% | 9.2% |
腹痛 | 19.1% | 13.1% | 13.9% |
嘔吐 | 14.4% | 9.1% | 12.2% |
咽頭発赤 | 76.6% | 81.3% | 77.2% |
全身倦怠感 | 62.9% | 61.4% | 65.8% |
食欲不振 | 60.1% | 61.9% | 59.8% |
関節痛や筋肉痛、高熱は、「インフルエンザの特徴」などと教科書にも書いてあるかもしれませんが、このデータをみると、実際にそうでもないのが分かります。確かに、少しそう言う傾向はあるのかもしれませんが、数%高いレベルですね…
検査の感度
時間別に見た検査の感度は以下の通りでした
インフル | A | B |
<6時間 | 64.3% (18/28) |
71.4% (15/21) |
7-12時間 | 90.6% (29/32) |
83.3% (25/30) |
13-24時間 | 84.1% (95/113) |
77.6% (59/76) |
25-48時間 | 96.6% (57/59) |
80.6% (29/36) |
やはり、時間とともに感度は変わりますね。少なくとも6時間は経っていた方が良さそうです。
咽頭 vs. 鼻腔スワブによる違い
通常は、鼻腔スワブで診断しますだ、咽頭スワブと比較しています。
A型に関しては、以下の通りでした:
感度 | 特異度 | |
鼻腔 | 89.4% (186/208) |
94.6% (261/276) |
咽頭 | 78.8% (41/52) |
91.8% (55/60) |
B型はこちらです:
感度 | 特異度 | |
鼻腔 | 75.7% (103/136) |
97.5% (269/276) |
咽頭 | 78.3% (18/23) |
95% (57/60) |
A型に関しては、咽頭より鼻腔で検査をした方が感度・特異度は少し上がりそうですね。
結果判定までの時間
結果判定までの時間も比較しています:
時間 | 累積% |
0-60秒 | 53% |
180秒 | 83% |
300秒 | 90% |
600秒 | 95% |
900秒 | 100% |
感想と考察
なかなか、網羅的で面白い研究でした。英語論文でも十分、いいところにいけたんじゃないでしょうか。
同じような研究で、機械学習とか取り入れてみると、さらに面白そうですね。
まとめ
今回はインフルエンザの臨床診断と、迅速検査のタイミングを検討した研究です。
症状から臨床診断をするのはやや困難です。一方で、迅速診断は、少なくとも6時間、できれば24時間ほど経過してからの方が良さそうです。
- インフルエンザの診断に関する妥当性の研究
- 臨床診断でインフルとその他の風邪を見分けるのはやや困難かも
- 迅速検査は少なくとも6〜24時間は経過してから
当ブログの注意点について