これまで、入院患者をメインの対象として、整腸剤の有効性を検証した研究をご紹介してきました。
他の研究を遡ってみたところ、外来で乳酸菌の有効性を検証した研究を発見しましたので、今回ピックアップしました。
下痢の治療の基本は、適切な水分と栄養摂取になります。
プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌など)は、あくまで補助的な治療になりますが、近年はこれらの有効性を検証した研究が徐々に増えてきています。
乳酸菌といっても様々な種類があります。
今回の研究では、Lactobacillus reuteriという菌株を使用していますが、この菌株ですら、
- Lactobacillus reuteri DSM 17938
- Lactobacillus reuteri ATCC 55730
など様々なサブ分類があるようです。今回は前者(DSM 17938)を使用しており、この菌株はテトラサイクリンやリンコマイシンへの耐性遺伝子を、他の細菌に移行できないように工夫されているそうです。
研究の方法
今回の研究は多施設ランダム化比較研究でして、
- 3ヶ月〜5歳
- 急性胃腸炎あり
- 下痢は12〜72時間ほど持続
- 慢性疾患なし
- 入院は必要なし
- 抗菌薬は使用する必要なし
などを対象にしています。
治療は、経口補水液(ORS)に加えて、
- 乳酸菌(Lactobacillus reuteri DSM 17938): 1億CFU
- 無治療
のいずれかが使用されています。
アウトカムについて
研究のアウトカムですが、
- 下痢の期間
- 下痢の有無(日毎に計測)
- 副作用
です。下痢はBristol scoreを基に判断し、5点未満は正常なべんと判断しています。
研究結果と考察
最終的に60人が研究に参加し、29人が乳酸菌を、31人が無治療を割り付けられています。
患者背景は以下の通りになります:
乳酸菌 | 無治療 | |
月齢 | 27.9 | 22.6 |
性別 (M:F) | 20:9 | 22:9 |
下痢回数 (受診前) |
7.13 | 6.1 |
下痢の期間 (受診前) |
18.1 | 20.1 |
下痢の期間について
下痢の期間は、
- 乳酸菌あり:60.4時間
- 無治療:74.3時間
と、乳酸菌を使用したグループの方が半日ほど短くなっています。下痢の推移を追ったテーブルはこちらになります。
24-48時間の時点で、乳酸菌の有効性が顕著になっています。
問題となるような副作用は認めませんでした。
考察と感想
整腸剤といっても様々な種類がありますし、乳酸菌ですら様々な種類があります。
似たような種類のプロバイオティクスなら効いてくれそうな気がしますが、実際に研究してみないと分からない点がもどかしく感じます。
今回の研究は、ここ数日お伝えしてきた研究とは少し趣旨が異なり、外来の軽症患者さんがメインです。
確かに結果を見ると乳酸菌に有効性がありそうです。
もちろん完璧な研究はないので、他の類似の研究を見つつ総合評価を指定と思います。
例えば、今回の研究は月齢が治療グループとコントロールグループでやや異なります。小児科的な感覚になりますが、1−2歳での5ヶ月はかなり大きいのではないでしょうか。
また、今回の研究は実はsingle-blindであり、盲検化が不十分です(解析者のみ)。
下痢の評価に主治医、保護者ともバイアスが入ってしまった可能性があり得ると思います。
まとめ
今回の研究は、トルコの3ヶ月〜5歳の胃腸炎を対象に行われましたが、乳酸菌は下痢の期間を半日ほど短縮させるのかもしれません。
ランダム化と盲検化にやや不安な点が残っている点は差し引いて慎重に受け止めようと思います。