- 「お腹の調子を整えるお薬を飲んでおきましょう」
お子さんが下痢で小児科外来に受診したとき、よくこんな感じの言葉とともに整腸剤が処方されていると思います。
そこで、今回は整腸剤の有効性を検証した最新の研究をピックアップしました。
発表された当初、Twitter上でもいくつかみかけた論文でした。
研究の背景
急性胃腸炎は5歳未満の乳幼児に多く、アメリカでは
- 170万件の医療機関受診
- 7万件以上の入院
と、医療への負担となっています。
近年に行われたメタ解析では整腸剤の有効性が示唆されていましたが、研究の対象となったRCTは必ずしも質が高くなく、まだ議論の余地があると考えられています。
整腸剤の市場規模
世界的な視点でもても、整腸剤を含むProbiotics(プロバイオティクス)の市場は拡大傾向にあり、
- 2015年:370億ドル
- 2023年:640億ドル
にまで拡大すると考えられています。
そこで今回は、整腸剤としてよく処方されている乳酸菌(ラクトバチルス・ラムノサス (Lactobacillus rhamnosus))を使用して研究が行われました。
研究の方法
今回の研究は多施設ランダム化比較研究(Multi-center randomized controlled trial)が、全米の10箇所で行われました。対象となった小児は、
- 3ヶ月〜4歳
- 急性胃腸炎で外来を受診
- 水様性の下痢が1日3回以上、7日以内
- 慢性疾患がない
などを基準に選ばれています。
治療は、
- 乳酸菌製剤:ラクトバチルス・ラムノサス
- プラセボ
のいずれかを無作為に割り付けています。
アウトカムについて
アウトカムは治療開始5日後、14日後、1ヶ月後にメール or 電話で行われています。
- 中等症以上の下痢の有無
- 下痢の持続期間
下痢の重症度は「Vesikari scale」という指標を使って、9点以上を「中等症以上」としています(満点は20点)↓↓
研究の結果と考察
最終的に971人の患者が参加し、治療は
- 乳酸菌:483人
- プラセボ:488人
となっています。
年齢、性別、人種、完全母乳栄養、Vesikari scale、下痢や嘔吐の期間などは2つのグループはほぼ同等の結果でした。
病原体について
下痢の原因となった病原体についても調査しています。
下痢の重症度について
14日間追跡し、中等症以上の下痢症状が持続したと判断された人は以下の通りでした:
乳酸菌 | あり | なし |
中等症以上 | 55 (11.8%) |
60 (12.6%) |
合計 | 468 | 475 |
Risk ratioは0.96(95%CI, 0.68〜1.35)となっており、有効性は認められなかったです。
そのほかの指標について
そのほかの指標について、少し私のほうでpick upしましたが、
乳酸菌 | あり | なし |
下痢の期間 (中央値) |
49.7h | 50.9h |
点滴 | 4.1% | 4.6% |
入院 | 3.2% | 3.2% |
再受診 | 12.2% | 16.8% |
家庭内の二次感染 | 10.6% | 14.1% |
となっています。
全てに統計学的な有意差はありませんでした。
著者らは「有益性を提示できなかった」と記載していますが、どう思われますか。
確かに統計学的な有意差はないので「有効性あり」とは口が裂けてもいえないでしょう。
しかし、上のTableをみると、いくつかの項目で乳酸菌製剤のほうが若干ですがアウトカムが良い印象をもちます。
逆に、乳酸菌製剤のほうがアウトカムが悪かったとする項目はほとんどありません。
再受診率や家庭内での二次感染が5%ほどリスクが下がるのは、お子さんのいる家庭からしたらメリットがあるかもしれません。
もちろん、本当に「5%ほどリスクが下がるか」は今回の研究のみではなんともいえませんが、有効性の可能性が残されていることは否定しすぎない方が良いと思います。
統計学的な有意差、つまり「P値が0.05以下」かどうかだけをみて、「有効」「無効」と議論してしまうのは、やや乱暴な議論の仕方です。
もちろん今回の研究は「有効性を証明することはできなかった」わけですが、これは「無効である」とは限らないわけです。
少なくとも、私の目には、下痢の重症度は改善させないかもしれないが、再受診率や二次感染の予防効果のある可能性がまだ残されていると感じています。
まとめ
今回の研究から、乳酸菌製剤は下痢の重症度を改善させる効果は確認できませんでした。
再受診率や家庭内での二次感染に対して有効性があるか否かは、他の研究を参考にしながら慎重に判断しても良いと思いました。