科学的根拠

小児の長引く下痢(二次性乳糖不耐症)にヨーグルトや乳糖除去ミルクは有効か? パキスタン編

  •  下痢がなかなか治りません
  •  下痢が長引いていて心配です

と外来を受診される保護者の方々がいます。
通常のウイルス性の胃腸炎であれば、1週間前後で下痢が軽快することがほとんどです。しかし、胃腸炎によって腸が荒れてしまい、吸収不良になったり、二次性の乳糖不耐症になることがあります。

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二次性の乳糖不耐症は、乳糖を分解する酵素が一時的に枯渇してしまい、乳糖が分解できずに下痢になってしまう状態です。
「一時的」というのがポイントで、しばらく様子を見ていれば自然に治ることもあります。ですが、「しばらく」が数週間のこともあれば、さらに月単位かかってしまうことも稀にあります。

日本の小児科外来では、乳糖を除去したミルクを推奨したり、乳糖分解酵素を補充(ガランターぜ®︎)を追加することが多いでしょう。

今回の研究が行われたパキスタンでも、乳糖を除去したミルクなどはあるものの、ややコストが高く、保護者の方々に負担がかかってしまうため、今回のヨーグルトを使用した研究が行われたようです。

パキスタンやインドでは、下痢の時にキチリー(khitchri:rice-lentil、米とレンズ豆を煮たインドなどの郷土料理)を使用しています。こちらの料理にヨーグルトを加えると、乳糖不耐症が改善するかを見ています。

研究の方法

今回の研究は1991年〜1992年にかけて、パキスタンで研究が行われました。対象となったのは、

  •  生後3ヶ月〜7歳
  •  下痢が14日以上ある
  •  血便なし
  •  慢性疾患なし

などを満たす小児です。乳糖不耐症の診断は、

  •  便のpH ≤ 6.0
  •  Reducing substance ≥ 0.5 gm%

も両方を満たす場合に診断しています。
“Reducing substance”とは、糖分などが吸収されない場合に上昇する指標のようです。

比較した治療方法について

比較した治療方法ですが、

  •  A: キチリー + ヨーグルト
  •  B: 乳糖除去ミルク
  •  C: 豆乳

をランダムに割り当てて治療効果を比較しています。

研究のアウトカムについて

研究のアウトカムは、

  •  下痢の回数
  •  下痢の期間

を治療開始後、数日ほど追跡しています。

研究の結果と考察

最終的に41人の患者が研究に参加し、解析の対象となったのは30人の患者でした。
内訳としては以下の通りです:

A: キチリー + ヨーグルト 9人
B: 乳糖除去ミルク 11人
C: 豆乳 10人

下痢の日数や回数の比較

A, B, C3つのグループで下痢の日数や回数の推移を比較してみましょう。

  A B C
下痢の期間 3日
(1〜11)
5日
(1〜12)
4日
(1〜10)
下痢の回数      
〜24時間 13  13 12
25〜48時間 10 9 10
49〜72時間 6 7 10

キチリーとヨーグルトを使用したグループAと乳糖を除去したグループBは下痢の回数が半分ほどに減っています。

総カロリー摂取量(Total caloric intake)の比較

体重あたりの総カロリー摂取量を3つのグループで比較すると以下のようになりました:

kcal/kg A B C
0−24時間 68.8 73.5 66.1
25ー48時間 81.9 70.1 59.8
49−72時間 92.5 65.5 62.4

3つのグループで統計学的な有意差は無いものの、キチリーとヨーグルトを使用したグループAの摂取量が高い傾向にありました。

感想と考察

「二次性乳糖不耐症」と聞くと、全ての乳製品を除去してしまいたくなってしまいます。意外な結果ですが、キチリーとヨーグルトのコンビは、おそらく乳糖除去したミルクに制限するのと同じくらいの効果がありました。

日本をはじめとした先進国であれば、乳糖除去のミルクを入手するのはそれほど難しく無いですし、通常のミルクと比較すると、ややお値段が張りますが、購入可能なお値段と思います。

パキスタンのような途上国では、経済的に苦しい家庭が多く、こういったミルクを入手するの大変でしょう。このため、今回の研究が行われたようで、パキスタンの小児の実臨床の問題を反映している論文と思いました。
現に論文のDiscussionには、乳糖フリーのミルクにかかるコストについての記載がされていました。

恥ずかしながら、キチリー(khitchri)という料理の存在を知りませんでした。実際にどのような料理か、味やテイストを試してみたくなったため、今度、インド料理屋に入る機会があれば、試してみようと思います。

まとめ

 

今回のパキスタンで行われた研究では、二次性の乳糖不耐症による長引く下痢に、ヨーグルトとキチリーの組み合わせは、乳糖を除去したミルクとほぼ同等の効果がありそうでした。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。