止瀉薬

ロペラミドの有効性と副作用の検討結果 アメリカ&メキシコ編

最近はRacecadotrilに少し脱線しましたが、ロペラミドの研究結果に戻ります。

今回は、アメリカとメキシコで、小児を対象に行われた多施設ランダム化比較試験を見つけたので、そちらを紹介させていただこうと思います。

ロペラミドはいわゆる止瀉薬(下痢止め)でして、腸の蠕動(動き)を止めることでその有効性を発揮しています。ただし、胃腸炎などによる下痢は、病原体を体が排出する行為であり、無理に薬で止める必要があるのか、疑問に思っている臨床医も多いです。また、腸の動きを抑制することで、腸閉塞などの合併症を起こす懸念もあります。

研究の方法

今回の研究は、アメリカとメキシコの13施設の家庭医で行われたランダム化比較試験になります。対象となったのは、

  •  2歳〜11歳の小児
  •  急性胃腸炎発症後、48時間以内
  •  24時間以内に4回以上の下痢あり
  •  経口摂取可能
  •  慢性疾患なし

を参考に選別しています。

治療について

治療は、

  •  ロペラミド
  •  プラセボ

のいずれかを投与しています。

アウトカムについて

アウトカムは、

  •  固形便になるまでの期間
  •  下痢の改善するまでの時間
  •  副作用の頻度

などを比較しています。

研究結果と考察

研究が行われた1991-93年にかけて、最終的には258人が参加し、130人がロペラミドを、プラセボが128人でした。6割以上が2-5歳で、男児が6割でした。

下痢の期間について

治療開始から下痢がなくなるまでの期間を比較していますが(中央値)、

  •  ロペラミド:18.5時間
  •  プラセボ:26.8時間

となっています。

これとは逆に、治療開始から下痢が出現するまでの期間は、

  •  ロペラミド:4.3時間
  •  プラセボ:3.0時間

となっています。つまり、この薬を内服すると、下痢が出現するインターバルが長くなる可能性が示唆されています。

下痢の回数について

下痢の回数を8時間毎にチェックすると、

  ロペラミド プラセボ
〜8 1.15 1.47
8〜16 0.45 0.63
16〜24 0.45 0.75
24〜32 0.51 0.72
32〜40 0.22 0.22
40〜48 0.25 0.25

あまり大きな違いはなさそうに見えますが、治療開始から8〜32時間はやや回数が少ないのかもしれませんね。

有効性の実感について

主治医の主観に基づいて「有効であったか」を5段階げ評価していますが、(点数が高いほど有効)

  •  ロペラミド:2.6
  •  プラセボ:2,2

とロペラミドの方が、やや点数が高かったです。

副作用について

副作用の評価は以下の通りでした

  ロペラミド
(N = 130)
プラセボ
(N = 128)
全て 20 9
嘔吐 6 2
吐き気 5 0
発熱 3 2
眠気 2 1
2 1
鼻炎 2 0

ロペラミドをしようしたグループの方が、吐き気や嘔吐といった消化器系の症状は多い印象です。

考察と感想

ロペラミドとプラセボの比較ですと、ロペラミドの方が下痢の期間がやや短くなる印象です。腸の動きを抑制するため、確かにこの結果には納得します。

一方で、下痢の期間が8時間ほど短くなるとして、これが臨床的にどのくらい意味のあることなのか、少し疑問に思ってしまいました。
また、副作用のリスクはプラセボと比較して二倍ほどあり、この点は見逃せないようにも思います。

急性胃腸炎は軽症であれば医学的な介入はほとんど必要なく、水分・塩分・糖分など適切な栄養摂取と、安静で基本的に自然軽快します。副作用のリスクを負ってまで、無理に下痢を止める必要があるのか、少し疑問に思ってしまいました。

まとめ

今回の、アメリカとメキシコで行われたランダム化比較試験によると、ロペラミドはプラセボと比較して、下痢の期間を8時間ほど減らす効果がありそうでした。

一方で、ロペラミドを使用した場合、消化器症状の副作用のリスクが二倍になるため、ロペラミドを健常な小児の下痢に使用すべきかは、慎重な姿勢でいます。

 

胃腸炎のときは、適切な水分・糖分・塩分の摂取が重要です。経口補水液を利用すると、効率的に補給できます。

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。