抗菌薬

マクロライドの使用量が多いほど、耐性化したマイコプラズマが多い

日本国内でマクロライド耐性の肺炎マイコプラズマを調査したデータは複数あります1-3。そちらの結果をまとめると、以下のようになります。

2002年時点ではほとんど検出されなかった耐性菌が徐々に増加して、2007年には60%以上になっています。
2012年に日本国内で行われた調査によると、マクロライド耐性マイコプラズマ肺炎の割合はさらに増加して87.1%にまで増加していました。2012年以降の耐性菌の割合は、別の調査によると32012年は81.6%2013年は65.8%2014年は59.3%2015年は43.6%と、一時期よりは耐性菌の割合は減少傾向にあります。

これらの報告の問題点

ここで示した耐性率ですが、主に三次医療機関からの報告になる点に注意しましょう。当たり前ですが、重症例や入院症例が多いのが予想されます。
この高い耐性率については、軽症例が大半の一般的な小児科外来にまで一般化できない可能性があります。

マクロライド耐性マイコプラズマの国際比較

日本を含むアジアはマクロライド耐性マイコプラズマが多いと解説してきましたが、日本を海外の耐性率を比較してみましょう。今回は、2010–13年に報告されたデータをもとに解説していきます。

耐性率

日本2

87.1%

中国4

69.0%

韓国5

62.9%

アメリカ6

13.2%

デンマーク7

1.9%

ドイツ8

3%

イタリア9

26%

イスラエル10

32%

スコットランド11

19%

オランダ11

0%

スイス11

2%

UK11

9%

フランス11

10%

こちらのデータを、国別の人口あたりのマクロライドの使用量(DID)で比較した図は以下の通りです。

こちらの散布図(scatter plot)をみると、マクロライドの使用量(DID)が多いと、マイコプラズマのマクロライド耐性率が高い傾向があるのが分かります。

また、他の地域と比較して、アジアはマクロライド耐性率が非常に高いのが分かります。以前の記事でも解説しましたが、日本や韓国などアジアでは、他の地域と比べて、マクロライドの使用率が非常に高い傾向にあります。

マクロライドを多用する診療パターンが、マイコプラズマの耐性菌の増加という当たり前の結果を招いているのかもしれません。

 

● マイコプラズマ感染症についてはこちらで解説:

マイコプラズマ感染症についてマイコプラズマ感染症まとめ マイコプラズマにかかると、風邪、肺炎、気管支炎を起こします 5歳〜12歳の学童でよく起こります ...

● マクロライド耐性の問題はこちらでもトピックしています:

日本の小児のマイコプラズマ感染は9割が耐性菌!?【マイコプラズマ肺炎】前回、こちらの記事で、風邪に抗生剤を処方する医師の傾向を説明してきました。 https://www.dr-kid.net/amr-ou...

● 小児感染症の基本はこちらの本で学習すると良いでしょう。最高傑作の本で、小児科医はmust readです。

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参考文献

  1. Morozumi M, Takahashi T, Ubukata K. Macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae: Characteristics of isolates and clinical aspects of community-acquired pneumonia. J Infect Chemother. 2010;16(2):78-86. doi:10.1007/s10156-009-0021-4
  2. Okada T, Morozumi M, Tajima T, et al. Rapid effectiveness of minocycline or doxycycline against macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae infection in a 2011 outbreak among Japanese children. Clin Infect Dis. 2012;55(12):1642-1649. doi:10.1093/cid/cis784
  3. Tanaka T, Oishi T, Miyata I, et al. Macrolide-Resistant Mycoplasma pneumoniae Infection, Japan, 2008–2015.Emerg Infect Dis. 2017;23(10):1703-1706. doi:10.3201/eid2310.170106
  4. Cao B, Zhao C-J, Yin Y, et al. High prevalence of macrolide resistance in Mycoplasma pneumoniae isolates from adult and adolescent patients with respiratory tract infection in China. Clin Infect Dis. 2010;51(2):189-194. doi:10.1086/653535
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  6. Zheng X, Lee S, Selvarangan R, et al. Macrolide-resistant Mycoplasma pneumoniae, United States. Emerg Infect Dis. 2015;21(8):1470-1472. doi:10.3201/eid2108.150273
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  11. Health Protection Surveillance Centre. Antimicrobial resistance and healthcare-associated infections – Annual epidemiological report 2014 [2012 data]. Annual Epidemiological Report on Communicable Diseases in Europe. https://ecdc.europa.eu/en/publications-data/antimicrobial-resistance-and-healthcare-associated-infections-annual. Published 2015. Accessed May 6, 2019.

 

ABOUT ME
Dr-KID
このブログ(https://www.dr-kid.net )を書いてる小児科専門医・疫学者。 小児医療の研究で、英語論文を年5〜10本執筆、査読は年30-50本。 趣味は中長期投資、旅・散策、サッカー観戦。note (https://note.mu/drkid)もやってます。