感染予防として、手洗い・マスクはよく言われますが、どのくらいのエビデンスがあるのでしょうか。
今回は、マスクの予防効果が気になったため、過去の研究を調べてみました。
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SARSが流行した香港において、ケース・コントロール研究
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マスク、頻回の手洗い、消毒といったよく行われる予防方法は、感染のリスクを低下させるかも
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この研究はバイアスの混入が明らかでやや疑問の残る
Josepf TF Lau, et al. SARS Transmission, Risk Factors, and Prevention in Hong Kong. Emerging Infectious Diseases
2003年のSARS流行時の研究です。
研究の概要
2003年に行われた、ケース・コントロール研究です。
SARSの感染者の定義は、当時流行していた香港において、
- 2日以内に38℃以上の体温 + レントゲンで肺炎像
人において、以下のうち、少なくとも2つを満たす:
- 過去2日に寒気あり
- 新規 or 悪化する咳がある
- 呼吸苦あり
- 倦怠感あり
- 筋肉痛あり
- 結節影あり
- 接触歴あり
としています。やや、曖昧な定義で、結構な誤分類がありそうです。
香港におけるSARSに感染したと思われる患者1192人のデータを解析しています。
結果
1192名の内訳は以下の通りです:
- 感染源を知っている:0%
- 感染源は不明:9%
- 感染源は不確定:1%
このうち、感染源が不確定だった29.1%のケースを使用して、市中感染の危険因子を探索するケース・コントロール研究を行なっています。
コントロールは、電話番号を使用してランダムに抽出しています。年齢と性別をマッチさせています。
予防因子として、マスクの使用の頻度、手洗いの頻度、居住区域の消毒などをみています。
単変量/多変量ロジスティック回帰分析を著者らは行なっていますが、
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Case |
Ctrl |
cOR |
aOR |
|
マスクの着用 |
27.9% |
58.7% |
0.36 |
0.27 |
|
1日10回以上の手洗い |
18.4% |
33.7% |
0.44 |
0.58 |
|
生活区域の消毒 |
44.6% |
74.5% |
0.30 |
0.41 |
これらの因子は、いずれも予防効果として示唆される結果でした。
感想と考察
SARSが流行した香港において、ケースコントロール研究で、予防効果を検証しています。
この結果によると、マスク、手洗い、消毒といった、よく行われる予防方法は、少なくともSARSの流行地域においては有効そうという内容でした。
一方で、この研究の手法にいくつか問題点もありそうです。例えば、電話番号によるコントロールのサンプルは、選択バイアスを招くため、現代ではほとんど行われていません。
確かに、電話番号は居住地域などをある程度反映するため、簡便ですが、電話にでて、受け答えする人をサンプルするので、その時点で選択バイアスが入りやすいです。
また、マッチングを行なった解析ですが、conditional logistic regressionなどが行われておらず、やや疑問の残る内容です。マッチング因子を対応しない場合、バイアスは帰無(OR=1)方向に動くといわれています。今回の結果は、このバイアスがあっても、予防効果は示唆されていますが、これに意味があるかは、他のバイアスとの兼ね合いな印象です。
まとめ
SARSが流行した香港において、ケース・コントロール研究で、マスク、頻回の手洗い、消毒といったよく行われる予防方法は、感染のリスクを低下させるかもしれません。
一方で、この研究にはバイアスの混入が明らかで、やや疑問の残る結果です。
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